しずか)” の例文
通を曲って横町へ出て、なるべく、話の為好しいしずかな場所を選んで行くうちに、何時か緒口いとくちが付いて、思うあたりへ談柄だんぺいが落ちた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの乗合客の中で、独り他念なく読書三昧のていだったが、そのしずかな姿には、どことなく、武人の骨ぐみが出来ている。すこしも体に隙がない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋晴あきばれ或日あるひ、裏庭の茅葺かやぶき小屋の風呂のひさしへ、向うへ桜山さくらやまを見せて掛けて置くと、ひる少し前の、いい天気で、しずかな折から、雀が一羽、……ちょうど目白鳥の上の廂合ひあわい樋竹といだけの中へすぽりと入って
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなはち地にも倒れつべし、されども秀郷、天下第一の大剛の者なりければ、更に一念も動ぜずして、かの大蛇のせなかの上を、荒らかに踏みて、しずかに上をぞ越えたりける、しかれども大蛇もあへて驚かず
この弟宮も、しごくしずかさがではあったが、父皇の遠謀によるおいいつけと、また兄宮大塔の下にもよくその命に従って
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど。しんとしたもんですね、どうでしょう、このしずかさは……」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲冑かっちゅうを白い衫衣すずしに脱ぎかえ、蚊やり香の糸にしずかな身を巻かれてみると、あだかも血の酔いから醒めたような、むなしいものだけが心におどんでくるのだった。
「つまり、しずかであれば、人が山を見。忙しければ、人は山に見られているということなので」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)