門札もんさつ)” の例文
と書いた門札もんさつが、もう眼をよせてよく見なければ読めないほど黒くなって、しかしいかめしさを失わずにかかっている。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこを少し行って、大通りを例の細い往来へ切れた彼は、何の苦もなくまた名宛なあて苗字みょうじ小綺麗こぎれいな二階建の一軒の門札もんさつ見出みいだした。彼は玄関へかかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
谷中やなかから上野を抜けて東照宮の下へ差掛さしかかった夕暮、っと森林太郎という人の家はこの辺だナと思って、何心なにごころとなく花園町はなぞのちょう軒別けんべつ門札もんさつを見て歩くとたちまち見附けた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
するとコトエやミサ子や、気の強い小ツルまでが、しくしくやりだした。泣き声の合唱である。岬分教場の古びた門札もんさつのかかった石の門の両側に、大きなやなぎと松の木がある。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
安井別宅との門札もんさつ、扨は本町のかど通掛りの人もうなづく物持ものもち、家督は子息にゆづりて此處には半日の頃もふけし末娘、名さへ愛とよぶのと二人先代よりの持傳もちつたへ家藏はおろか
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それほど世間から自分たちを切り放しているのを二人ふたりとも苦痛とは思わなかった。苦痛どころではない、それが幸いであり誇りであった。門には「木村」とだけ書いた小さい門札もんさつが出してあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして、ちいちゃんが、ひろとおりへようとしたとき、一けんのごもんまえに、一人ひとりのおばさんが、ふろしきづつみをかかえて、紙片かみきれって、門札もんさつをながめながら、ぼんやりっているのをました。
鳥鳴く朝のちい子ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
門札もんさつは名前が変っていた。入口にあった御柳も姿を見せない。