鋪石しきいし)” の例文
腐りかけた門のあたりは、二、三本しげったきりの枝葉が暗かったが、門内には鋪石しきいしなどかって、建物は往来からはかなり奥の方にあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庭の金木犀きんもくせいは風につれてなつかしい匂いを古びた寺のへやに送る。参詣者は朝からやってきて、駒下駄の音がカラコロと長い鋪石しきいし道に聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それらの人びとは少しの音もさせずに自分たちの席につきましたが、その動いている時、鋪石しきいしの上に靴の音もなければきぬずれの音もないのです。
玄關へ𢌞してゐるところで、私の主人は鋪石しきいしの上を歩き𢌞り、パイロットは前になり後になりして、ついて𢌞つてゐた。
硬き鋪石しきいしはまたアルメオンが、かの不吉なるかざりの價のたふとさをその母にしらしめしさまを示せり 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
風が高い建物に当たつて、思ふ如く真直に抜けられないので、急に稲妻に折れて、頭の上からはす鋪石しきいし迄吹き卸ろして来る。自分は歩きながら、被つてゐた山高帽を
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お銀様はお君の手を取って引き立てるようにし、自分が先へ立ってお宮の前の鋪石しきいしを歩きました。お銀様の挙動には、いつでもこんな気むずかしいことがあります。
すると、一つの石か、瓦か、鋪石しきいしの破片のようなものの下の土の中に、小さな革製のケースか嚢かの塵になったものとまじって、塵になってしまった紙が見つかったんだそうですよ。
『で、残り物と云えば出口の鋪石しきいしの上に賊どもが取り落して破したものらしいこんな象牙の破片が落ちていました。……どうです、ニコルさんとやら何とか見当が付きますかね?』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
新吉には、いかにも晩の食卓が楽みらしく、勤に出て行くにも張合はりあいのある姿だった。おときはそれが嬉しかった。格子の外に出て、鋪石しきいしの上に靴の音が聞えたが、新吉は又戻って来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
凜冽りんれつたる朔風さくふうは門内のてた鋪石しきいしの面を吹いて安物の外套がいとう穿うがつのである。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夜の街路を通りゆく泥濘でいねいの箱車、塵芥ごみ捨て場のきたないたる鋪石しきいしに隠されてる地下の臭い汚泥おでいの流れ、それらは何であるか? 花咲く牧場であり、緑の草であり、百里香や麝香草じゃこうそう鼠尾草たむらそうであり
ほのかにも瓦斯のにほひのただよへる勸工場の暗き鋪石しきいし
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
わがかどはヒマラヤ杉の朝月夜影がそよげり鋪石しきいしのうへに
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
玄関の鋪石しきいしのところから拾い上げて、ころんだ子供をいたわるようにでていましたが、それが鋪石に当って、多少の凹みが出来たことを惜しいものだと思っています。
同じやうに外套に包まれてゐるが鋪石しきいしの上にカツ/\と鳴つたのは拍車をつけた靴の音です。そして見るとホテルのアアチがたの正門を通つて行くのは帽子を被つた頭なんです。
「君と僕とが落合うとはこれあ不思議な𢌞り合せだ。自分にそっくりの人間とここで二人だけでこの鋪石しきいしの上に立っているなんて、君にとっても不思議な晩に違いないだろう?」
サン・バルテルミーのごときあらゆる非道は、鋪石しきいしの間から一滴一滴とそこにしたたる。公衆の大虐殺は、政治上および宗教上の大殺戮は、この文明の地下道を通って、そこに死骸しがいを投げ込んでゆく。
わがかどはヒマラヤ杉の朝月夜影がそよげり鋪石しきいしのうへに
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
このにほふ鋪石しきいしはしろがねのうれひにめざめむ。
この鋪石しきいしの上で、主膳はふと、さんざんに引裂かれた一つの御幣ごへいの落ちているのを認めました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、その場所にはさっきのあの哀れな父親が鋪石しきいしの上に俯向になってひれ伏していて、その傍に立っている人の姿は編物をしている一人の浅黒いがっしりした婦人の姿であった。
それとも正面の鋪石しきいしの上を歩いてゐらつしやるかも知れない。
それは鋪石しきいしの上をはっていた。呼びかけたのはそれだった。
門内はるかに相応ずる声がしたが、鋪石しきいしをカランコロンと金剛を引きずる音がする。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)