遁逃とんとう)” の例文
盗んでこれをかくし、殺して遁逃とんとうするは何ぞや。他の平安幸福をば害すれども、おのずから害するを好まざるの証なり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それが急に遁逃とんとうして空虚にされてしまったりする場合に、どこへ的を置いて矢を放っていいかわからないから、そこで突発的に、「ばかにしてやがら」——
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
教会内けふくわいない偽善者ぎぜんしや潜伏せんぷくし居るを知りながらその破壊はくわいおそれて之を排除はいぢよし得ざるものなり、教会けうくわい独立どくりつとなへながら世の賛同さんどうを得ざるが故に躊躇ちうちよ遁逃とんとうするものなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
一瞬の奇蹟を眼下に見ながら、私は、今こそ、私の中なる夜が遠く遁逃とんとうし去るのを快く感じていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
不可解は恐怖になり、恐怖は遁逃とんとうを思わしめるに至った。で、何も責め立てられるでも無く、強請されるでも無いが、此男の前に居るに堪え無くなって、退こうとした。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冬にいたりて帰蟄きちつする者なればなり、つ一行二十七名の多勢なれば、如何なる動物どうぶつと雖も皆遁逃とんとうしてただちにかげしつし、あへがいくわふるものなかりき、折角せつかく携帯けいたいせる三尺の秋水しうすゐむなしく伐木刀とへん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ついで諸方の官軍は問罪として東海東山の諸道より江戸に入り、関東の物論沸くがごとく、怒て官兵に抗せんとする者あり、恐れて四方に遁逃とんとうする者あり。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
他の大将ならば或は遁逃とんとう的態度に出て、そして敵をして其企図を多少なりとも成就するの利を得、味方をして損害をこうむるの勢を成さしめたであろうに、氏郷が勇敢に職責を厳守したので
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)