逢引あいびき)” の例文
六角堂に参詣するとか、黒谷くろだに様に墓参のためとか言って、しげしげと外出そとであそばしたのは皆その女と逢引あいびきするためだったのでしょう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
お房は、路地の中で、誰かと逢引あいびきするか誰かを待っていた筈だ——が、そのお房と逢引していた男がお房を殺した人間では無いよ。
悔いは、かれの良心をさいなんだが、お袖との逢引あいびきは、苦しむほど、悪を伴なってぬすむほど、楽しさ、甘さを、深くした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逢引あいびきをするつもりなら、街なかでも市立公園でも簡単にできるものを、わざわざよる夜中に、それもはるか郊外にある墓地を指定するなんていうことを
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さながら逢引あいびきに出かけて行って、結局ひとりぼっちで、他人の幸福のそばを指をくわえて通ったような。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
前の女房の眼をかすめて福子と逢引あいびきしていた時代の、楽しいような、れったいような、変にわくわくした、落ち着かない気分、———まああれぐらいなものなのだが
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
或る男女の逢引あいびきをしているのをのぞきに行く段などを見て、そう思ったのであるが、その時の疑は、なんで作者がそういう処を、わざとらしく書いているだろうというのであって
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
勇「おらアいやだ、ハテナ昔から幽霊と逢引あいびきするなぞという事はない事だが、もっとも支那の小説にそういう事があるけれども、そんな事はあるべきものではない、伴藏嘘ではないか」
そのへんからは土堤の左右に杉の古木が並木になり、上熊本駅へゆく間道で、男女の逢引あいびきの場所として、土地でも知られているところだったが、三吉にはもはやおっくうであった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ドゥーニャがあの人の強いる逢引あいびきや密談を断わるために、やむなく書いてあの人に渡した手紙で、それがドゥーネチカの出発後、スヴィドリガイロフ氏の手もとに残っていたのです。
そばに彼らと連れ立った二人の神巫かんなぎは、もう、花桐のそばにくると、指を反らせ、呪文のようなものをとなえはじめた。陰陽師は再び花桐にこれから後にも、男と逢引あいびきするかどうかを尋ねた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「その七割はおれのものだ。」また、商人は倉庫に満す物貨を集め、長老は貴重な古い葡萄酒ぶどうしゅあさり、公達きんだちは緑したたる森のぐるりに早速縄を張り廻らし、そこを己れの楽しい狩猟と逢引あいびきの場所とした。
心の王者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
重なる逢引あいびき。ふと断ち切られたような別離。秋の夜の停車場。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
男と逢引あいびき——そんな事も考えられないではありませんが、お春が居なければ、事を欠くのを承知で、留め置く人間もあるはずはなく、第一逢引のために
ヤーシャ うちへ帰りなさい、川へ水浴びに行ったような顔をして、こっちの小径こみちから行きたまえ。うっかり出くわそうもんなら、僕がさも君と逢引あいびきしてたように思われるからな。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
見とがめられるおそれがあるので、逢引あいびきの男女が、たたずむように見せかけて、やり過ごそうとしたのですが、とたんに、抱きよせた娘の袖裏そでうらから、月形の短刀がのびるよと見るまに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其ののち度々たび/\逢引あいびきするので、私はあれをく/\は女房に貰う積りでございます
辛辣な花桐の朋輩ほうばいらも、しまいに持彦も官を免ぜられて浪々の身となってしまうであろう、そして花桐も殿中の勤めを辞めなければならぬようになる、しかも持彦の人もなげな逢引あいびきは夜に限らず
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「娘は男におびき出されたんじゃありませんか、親父が留守になったんで、逢引あいびきにはこの上もない時で——」
不図ふとした事から馴れ染め、人目を忍んで逢引あいびきをして居ると、その婦人が懐妊したので堕胎薬おろしぐすりを呑ました所、其の薬にあたって婦人はたってのくるしみ、虫がかぶってたまらんと云って、僕の所へ逃出にげだして来て
彼は話しながら、こんなことを考えていた——今こうして自分は逢引あいびきに行くところだが、人っ子一人それを知った者はないし、たぶんいつまでたっても知れっこはあるまい。彼には生活が二つあった。
逢引あいびき
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この手紙で見ると、新助とお駒は、ときどき逢引あいびきしていたようだが、お前さんは、知らなかったのかい」
泥棒は千両箱二つ盗って逃げた後へ、逢引あいびきか何かの都合で、藤三郎とお仙が来たんだね。月明かりで見ると、土蔵に穴が明いている。中には千両箱が杉なりに積んである。