ことわ)” の例文
旧字:
渡し守は、彼が渡し舟に乗るのをことわらうとした。しかし、彼の腰にさしてゐる刀がこはかつたので、黙つて向かふ岸へ渡してやつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
これでは全く予期する処とちがった無益の住居と思って、折角好意を持ってくれた地主の尾入道にもことわりも云わないで逃げ上って来ました
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あたしだって彼様あんな窮屈なとこくよか、芝居へ行った方が幾らいか知れないけど、石橋さんの奥様おくさんに無理に誘われてことわり切れなかったンだもの。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
第一に雞のやうに赤い顔になるのが見ぐるしく今業平を以て自任する男振りが台なしになるから三盃以上は美人の勧めがあるほどおことわりと決めてゐる。
飲料のはなし (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
其処そこには又千百いろいろ事情が御座いまして、私の身に致しますと、その縁談は実にことわるにも辞りかねる義理に成つてをりますので、それを不承知だなどと吾儘わがまま
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで栄蔵は、紙鳶は見たくなかつたけれど、きつぱりことわることも出来なかつたので、こんどのお休みに行くといふことにきめた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
来るたびに何のかのと申しますのを、体好ていよことわるんで御座いますけれど、もううるさく来ちや、一頻ひとつきりなんぞは毎日揚詰あげづめに為れるんで、私はふつふつ不好いやなんで御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一昨日おとつい昇に誘引さそわれた時既にキッパリことわッて行かぬと決心したからは、人が騒ごうが騒ぐまいが隣家となり疝気せんき関繋かけかまいのないはなし、ズット澄していられそうなもののさて居られぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だがそれらの家々をまわりはじめて四軒目に木之助は深く心の内に失望しなければならなかった。どの家も、申しあわせたように木之助の門附けをことわった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
無暗むやみに貰うのは余りドットしませぬから、この縁談はまずことわッてやろうかと思います
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これはよしんば奴の胸中が見え透いてゐたからとて、勢ひことわりかねる人情だらう。今から六年ばかり前の事で、娘が十九の年老猾おやぢは六十ばかりの禿顱はげあたまの事だから、まさかに色気とは想はんわね。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ございません。私の方からおことわりしました。これでいいのです。私は十年も昔、人様にいはれない悪いことをしましたので、その報いはみな受けねばなりません。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「ヘー、見当も有りもしないのに無暗むやみことわッておしまいなすッたの」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一、登場人物は×名くらいが好都合である。一、明朗健全にして、国民性をよく発揚しているものたること。そしてこれはことわってはないが、芸術的にすぐれた作品でなければならぬことは勿論もちろんである。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)