辞世じせい)” の例文
支考しこう乙州いっしゅうら、去来きょらいに何かささやきければ、去来心得て、病床の機嫌きげんをはからい申していう。古来より鴻名こうめい宗師そうし、多く大期たいご辞世じせい有り。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
六袋和尚は六日先んじておのれの死期を予知した。諸般のことを調ととのえ、辞世じせいの句もなく、特別の言葉もなく、あたかも前栽へ逍遥に立つ人のように入寂にゅうじゃくした。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
芭蕪翁のわが詠み捨てた句は、一つとして辞世じせいならざるはなしの徹底芸術精神は、学んで到り得るにあらねども、一順礼じゅんれいの最後の足跡までに、しるしをつけておいた。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
しかるに、志もお変えあらず、この城を守り通して、しかも今、主家の安きを祈り、城中一同の命に代って御切腹あるとは、何たるここちよき、御辞世じせいであろう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客 しかし昔のさむらひなどは横腹をやりに貫かれながら、辞世じせいの歌をんでゐるからね。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
辞世じせいとて口碑こうひにつたふる哥に「岩坂のぬしたれぞとひととは墨絵すみゑかきし松風の音」遺言ゐげんなりとて死骸なきから不埋うづめず、今天保九をさる事四百七十七年にいたりて枯骸こがいいけるが如し。是を越後廿四奇の一にかぞふ。
「どれ、部屋へ帰って、今のうちに、辞世じせいでも考えて置こうかい」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
は、小三郎長治ながはる辞世じせいであった。また、まだうら若い彼の妻がのこした一首には
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辞世じせいとて口碑こうひにつたふる哥に「岩坂のぬしたれぞとひととは墨絵すみゑかきし松風の音」遺言ゐげんなりとて死骸なきから不埋うづめず、今天保九をさる事四百七十七年にいたりて枯骸こがいいけるが如し。是を越後廿四奇の一にかぞふ。
一人旅うき世をあとに半之丞。〔これは辞世じせいでしょう。〕おまつどの。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元弘の忠臣菊池武時たけときが、賊将少弐大友しょうにおおともの軍に包囲されて、最期の孤塁から家郷の妻を思い、一子武重たけしげに歌をたくして、母のもとはしらせたというその辞世じせいを——いまの自分に思いあわせて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、辞世じせいを詠じ、二度三度、のども破れよとくり返した。そして
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お市の方は、小机をよせて、辞世じせいの墨をすった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(さては辞世じせいを書きおくお心とみえる)
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)