贓品ぞうひん)” の例文
「怪しいのはこれだ。……ウーム、かなり重い、どこかの武家屋敷から盗み出した贓品ぞうひんだな。や、入念に、定紋じょうもんまでけずり落してある」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにぶんにも証拠とすべき贓品ぞうひんがないので、容易に判決をくだすことが出来なかった。そのあいだに、彼は獄卒にささやいた。
(玉虫厨子は上下二つに分けても、極大トランク二箇程の容積は充分ある筈だ。しかも彼の贓品ぞうひんはそれ丈けではない)
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
スパイダーはサディのアパートの裏手にある自動車庫ガレイジの道具箱に贓品ぞうひんを仕舞い込んだ。うして置けばシモン・スヌッドに渡すまでは先ず安全だった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
贓品ぞうひんをかくしてある石? ね、わたしはその石がどこかの菜園にあるのが、まざまざと見えるような気がします。
ガラッ八の面白そうに動く手に従って引っ張り出されたのは、ごとごとくお奉行所のお触れ書に載った贓品ぞうひんばかり。
スリの御用ずみの贓品ぞうひんをひそかに所持していることに、ぼくは共犯者のそれのような、あのやましげなスリルと、秘密の悪事に荷担する奇怪なよろこびをおぼえたのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
開いてみると、今回の窃盗事件はアルセーヌ・ルパンの指揮の下に行われ、贓品ぞうひんは翌日北アメリカへ向けて送られた。という文面である。警視庁はにわかに活動を進めた。
早速、腹心のひょろ松をひそかに呼びよせ、手下の下ッ引を動員して、市中の質屋、古物贓品ぞうひん買を虱つぶしにあたらせているが、今朝になっても一向に音沙汰がない。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小西警部はドアを開けると、入口の右側のデスクの上に、いっぱい積んだ贓品ぞうひんの山を指した。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
アリストテレースなどは贓品ぞうひんの蔵を建てた男である。仕事が大きいほど罪も深い。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
挙人老爺は贓品ぞうひんの追徴が何よりも肝腎だと言った、少尉殿はまず第一に見せしめをすべしと言った。少尉殿は近頃一向挙人老爺を眼中に置かなかった。つくえを叩き腰掛を打って彼は説いた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
地獄谷のひびき、神通のながれの音は、ひとしきりひとしきり脈を打って鳴りとどろいて、うずたかいばかりの贓品ぞうひん一個々々ひとつびとつ心あって物を語らんとするがごとく、響に触れ、ともしに映って不残のこらず動くように見えて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音を立てないその鉄格子は贓品ぞうひん受け取り人だった。
俺は贓品ぞうひんを身につけているのだぞ。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
宝石や貴金属の鑑定には、名人だという噂があり、贓品ぞうひんなどをも秘密に買って、秘密に売るという噂もあった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はたしてその下からは、贓品ぞうひんや金入れが発見された。一口に言えば、事件は明々白々となったのである。
人通りが少しまばらになると、女はバタバタと店を仕舞って、くだん贓品ぞうひんやらガラクタやらを竹籠たけかごの中にほうり込み、大風呂敷に包んで背負った上、茣蓙を丸めて小脇に
理由は、事件がまったく無欲の行為に依るからだといわれた。そのために、ほとんど、足どりとか贓品ぞうひんの経路とかいう常套的な捜査法はまったく用をなさなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらのたずさえて来た諸道具はみなほんとうの金銀宝玉を用いたものであるので、老女はそれを官に訴え出ると、それらは一種の贓品ぞうひんと見なして官庫に没収された。
その棺というのは外でもない、例の海賊朱凌谿の贓品ぞうひん箱だ。わしがそれまでに持出したのは、主として紙幣や金貨であったから、宝石類はそっくりそのまま残っている。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
階下したを隔てている天井裏、そっと降りて見ると、荷抜屋ぬきや贓品ぞうひんがだいぶ隠匿いんとくしてあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
贓品ぞうひんや抜荷を扱って、大坂から長崎へ、江戸へと移った後を尋ねて、骨にも沁むような艱難かんなんが、去年の暮、江戸へ入る一足手前の、神奈川の安宿で、お楽の命を奪ってしまったのです。
あのとき贓品ぞうひんをかくしておいた片隅の壁紙の穴へ駆け寄って、その中へ手を突っ込み、隅々隈々のこりなく、折れ目までひっくり返して調べながら、二、三分間、念入りに穴の中を探りまわした。
死体の処理に最も便利な地位に居ること、手の甲の煤跡、血のついた短刀、数々の贓品ぞうひん、つまり彼が見かけによらぬ悪人であること、これだけ証拠が揃えば、もう彼を犯人と見る外はないでしょう。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
贓品ぞうひんが五つでも六つでも出て来たら、この私は処刑おしおき、家は欠所に決っている。
たちまち、女房と二人を、後ろ手にくくしあげ、天井裏、床下と、手分けして家探しにかかる。贓品ぞうひんは彼の寝台の下、地下数尺の下から掘り出された。一つかみほどな、金銀宝石の入った麻袋あさぶくろだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「エ、なんですって? これが贓品ぞうひんだとおっしゃるのですか」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
家捜しをしてみると、蔵の中はお触書にある贓品ぞうひんだらけ。