裂帛れっぱく)” の例文
早くも裂帛れっぱくの気合とともに、ピシーリ。圓生の手の白い碁石が小圓太のほうへ投げつけられていた。危うく碁石は耳許をかすって後へ落ちた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
で、何かいい出しそうにじッ! とおさよを見すえた刹那せつな! 裂帛れっぱくの叫び声がどこからともなく尾をひいて陰々たる屋敷うちに流れると……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
裂帛れっぱくの美声を放って、さッと玉散るやいばを抜いて放つと、双頬そうきょうにほのぼのとした紅色を見せながら、颯爽さっそうとして四人の者の方ににじりよりました。
と息を計った吉祥房の容子ようすは、前の阿念とは段違いの身ごなし。新九郎も充分に大事を取って、ヤッと裂帛れっぱくの息を打ち合せて左右に跳び別れた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬鹿め!」と裂帛れっぱくの女の声! どうやらかしらの弁天松代が、一ツ橋家の武士どもに、目付かって包囲されたらしい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにおびえて狂いまわる猿輩さるども裂帛れっぱくの叫び……呑気な羊や、とりの類までも眼を醒して、声を限りに啼き立て、めき立てている。その闇黒の騒がしさ……モノスゴサ……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ピシリッと裂帛れっぱくの音がした。だんだら染めの美女が、獅子しし使いのむちで宙を打ったのだ。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
裂帛れっぱくの気合をかけた。不意を喰って見物も驚いたが、狼もよほど吃驚したらしい、また来たかという眼付をしていたが急にぴっと耳を立てる、とっとっとっと、矢来の中を走りはじめた。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この裂帛れっぱく気魄きはく如何いかん。いかさまクライストは大天才ですね。その第一行から、すでに天にもとどく作者の太い火柱の情熱が、私たち凡俗のものにも、あきらかに感取できるように思われます。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
時の将軍源義家朝臣は南殿に宿直とのいしており、御悩みの刻限にいたるや弓弦を三度響きわたらせると、高声で、「前陸奥守さきのむつのかみ源義家」と名乗ると、弓勢に劣らぬ裂帛れっぱくの気勢は聞く者の身が総毛立ち
裂帛れっぱくの叫び声が私の耳もとで叫ばれた。見ると、弥生子は顔を両手の中に埋めている。牛が馬か人かを突き殺したと思ったのだろう。しかし、誰もそんな初心な見物人を問題にする者はなかった。
闘牛 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
裂帛れっぱくの叱声が夜の道に散ったと同時で、ぎらりと銀蛇ぎんだが閃いたかと思われましたが、まことに胸のすく殺陣でした。
「えい!」と云う裂帛れっぱくの声、紋太夫の口からほとばしると見るや、傴僂せむしの老人の小さい体は、幾十丈幾百丈、底の知れない穴の中へもんどり打って蹴落とされた。
と身をひねって横にぐ。はッと風を切って木剣が横一文字、新九郎はその勢いの浪に浮かされた如くフワリとなったかと思うと、エイッという裂帛れっぱくの声を頭上に聞いて投げつけられた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの森の中には、動物園が在る。きあっと、裂帛れっぱくの悲鳴が聞えた。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
裂帛れっぱくの掛け声掛かるや、大いなる蝙蝠こうもり天井に向かって翩翻へんぽんとして飛んだかと見えたが、これぞ上州花隈はなくまの城主戸沢山城守直伝の秘法すなわち天狗飛切りの術。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
裂帛れっぱく一声、身を剣につれて、飛弾の如く玄蕃の鬢のあたりへさッと飛んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見て、残った二人が必死に逃げのびようとしたのを、裂帛れっぱくの一声!
裂帛れっぱくのように響き渡り、坊主之助の右の手が頭上に閃めくと思う間にさながら一本の棒のように続いて飛び来る十個の飛礫つぶて! 小太刀潜入飛燕の術もこの手練には施す術なく
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四絃の一声 裂帛れっぱくのごとし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サーッと一躍左へ飛び、「エイ!」と掛声! 裂帛れっぱく呼吸いき! 懐刀をまたもや一揮した。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その笑い声が途絶えた刹那またも裂帛れっぱくの掛け声がした。矢走りの音、弦返りの響き。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、桂子は裂帛れっぱくのように叫んだ。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)