袋戸ふくろど)” の例文
そうして袋戸ふくろどに張った新らしい銀の上に映る幾分かの緑が、ぼかしたように淡くかつ不分明ふぶんみょうに、ひとみを誘うので、なおさら運動の感覚を刺戟しげきした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新富町しんとみちょうの焼けた竹葉ちくようの本店にはふすまから袋戸ふくろど扁額へんがくまでも寒月ずくめの寒月のというのが出来た位である。
荒果あれはてたが、書院づくりの、とこわきに、あり/\と彩色さいしきの残つた絵の袋戸ふくろどの入つた棚の上に、やあ! 壁を突通つきとおして紺青こんじょうなみあつて月の輝く如き、表紙のそろつた
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
張り切つた残酷な大きな力が、何等の省慮もなく、張り切つた小さな力を抱へてゐた。彼はわなゝく手をやみの中に延ばしながら、階子段はしごだんの下にある外套掛ぐわいたうかけの袋戸ふくろど把手ハンドルをさぐつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
チャンとすましてもらしと無慈悲の借金取めが朝に晩にの掛合かけあい、返答も力男松おまつを離れし姫蔦ひめづたの、こうも世の風になぶらるゝものかとうつむきて、横眼に交張まぜばりの、袋戸ふくろど広重ひろしげが絵見ながら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
店と奥の境の袋戸ふくろどをのぞいて、行燈あんどんを出しかけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでにだだっ子である以上は、喧嘩をする勢で、むっくとね起きた主人が急に気をかえて袋戸ふくろどの腸を読みにかかるのももっともと云わねばなるまい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻君が袋戸ふくろどの奥からタカジヤスターゼを出して卓の上に置くと、主人は「それはかないから飲まん」という。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鼬の町井さんはやがて紅白の梅を二枝げて帰って来た。白い方を蔵沢ぞうたくの竹のの前にして、あかい方は太い竹筒たけづつの中に投げ込んだなり、袋戸ふくろどの上に置いた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)