虚栄心きょえいしん)” の例文
それがわずかに「わが青海流は都会人のたしなみにする泳ぎだ。決して田舎いなかには落したくない。」そういっている父の虚栄心きょえいしんを満足させた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
父のひとりよがりや、虚栄心きょえいしんや、さもしい見栄みえや、けちな量見りょうけんは、事ごとに濃厚に表われて、いちいち私をくさくささせるばかりであった。
あるいは着物が着たいとか、高位につきたいとか、人にめられたいとか、世の中に大きな顔がしたいとかいうは、虚栄心きょえいしんたす理想である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けれどわたしのばかな虚栄心きょえいしんはかれのいまのことばを聞くと、すうとけむりのように消えて行かなければならなかった。
世俗的な虚栄心きょえいしんが無い訳ではないが、なまじいの仕官はかえっておのれの本領たる磊落らいらく闊達を害するものだと思っている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし彼女かのじょはそれまで私が心の中で育てていたツルとはたいそうちがっていて、普通ふつうのおろかな虚栄心きょえいしんの強い女であることがわかり、ひどい幻滅げんめつを味わったのは
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ああ、なんという自分じぶんたちの先祖せんぞたちは、虚栄心きょえいしんつよかったでしょう。わたしは、もない、つまらないとりになりたいものです。そうしたら、不安ふあんなしに、一しょうおくられるでありましょう。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分ももと芸者であったからには、不粋なことで人気商売の芸者にケチをつけたくないと、そんな思いやりとも虚栄心きょえいしんとも分らぬ心がかろうじて出た。自分への残酷ざんこくめいた快感もあった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
男と競争してもけはしないぞといったような男子に対する一種の復讐ふくしゅう的な気持ちも加わっていて、自分にもはっきり意識しない虚栄心きょえいしんもそれに手伝っていたのである。
そればかりでなく、品物しなもの使つかみちがまたんでいた。というのは、金持かねもちのおくさまや、令嬢れいじょうがたがるためであって、ただそうしたおしゃれのひとたちの虚栄心きょえいしん満足まんぞくさせるに役立やくだつだけだった。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
虚栄心きょえいしんつよ小鳥ことりどもが、いばりすのは、しゃくだというのだ……。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)