草葺くさぶ)” の例文
海の浅瀬に差し出してある清涼亭という草葺くさぶき屋根の日本人経営の料亭へ、私たちを連れて行き、すぐ上衣を脱いだ。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
海鳴りの聞える草葺くさぶき小屋のなかで、身を寄せあうようにした彼らの家族たちは、ひたすらにのぞみをかけて待っている——その姿もありありと見えるようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
路ばたに一軒の新しい草葺くさぶきの家があって、ひとりの女がかどに立っていた。女は十六、七で、ここらには珍しい上品な顔容かおかたちで、着物も鮮麗である。彼女は周に声をかけた。
慶長見聞集けいちょうけんもんしゅう』という本を読んで見ると、今から三百四十年ほど前の、慶長けいちょう六年霜月しもつき二日、江戸丸焼まるやけという大火があったのち、幕府は命令をだして草葺くさぶきをあらためさせ
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
のきの端に富士を仰いで、春から夏を飛んで、すぐ秋虫の音を聞く山家住まい、あみだ沢は山あいに五、六軒の草葺くさぶきがかたまって炭焼き、黒水晶掘り、木こりにかりうど、賤機木綿しずはたもめん
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
第一だいゝち建築けんちくは、古墳こふん石室せきしつなども一種いつしゆ建築けんちくではありますが、人間にんげんなどのるいはどういふふうなものであつたかといふと、まへにもまをしたとほり、屋根やね草葺くさぶき、茅葺かやぶきあるひはまた板葺いたぶ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
人は知らじな、われら草葺くさぶきの家にかくれ去りなば。
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
中流まで漕ぎだすと、西陽が彼女らの目を射るのだ。そこで最後の会釈をしてむこう向きになった。すると彼女らの心は自分らの草葺くさぶき小屋にとびこんでいた。船が着く。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
速力計の針が六十五マイルと七十哩の間をちらちらすると、車全体がうなる生きものになって、広いアスファルトの道は面前に逆立ち、今まで眼にとまっていた榕樹の中の草葺くさぶきの家も
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
事務所は椰子林やしりんの中を切りひらいて建てた、草葺くさぶきのバンガロー風のもので、柱は脚立のように高く、床へは階段で上った。粘って青臭い護謨のにおいが、何か揮発性の花の匂いに混って来る。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
草葺くさぶき小屋のなか一ぱいに、それらの言葉はもやもやと立てめ、急に煙ったく呼吸いきぐるしくなったようであった。垂れこめた六月の夜の、まッ黒い湿った空気が浸みこむためかも知れない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)