色町いろまち)” の例文
が、あの暗を払つてゐる竹藪と、この陽気な色町いろまちとが、向ひ合つてゐると云ふ事は、どう考へても、嘘のやうな気がした。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは踊子部屋の光景——その暗惨あんさんとその乱雑とそのさわがしさの中には、場末の色町いろまちの近くなどで、時たま感じ得るようなゆるやかなあわい哀愁の情味を
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この恋物語を書く必要上、ここでその当時に於ける京の色町いろまちいて、少しばかり説明を加えておきたい。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今ごろそんなことを穿鑿せんさくする者も無いのが当然だが、是が今一つ以前の社会相、すなわち人がめったに生まれ在所の外に旅をせず、茶屋も色町いろまちもまだ備わらなかった世の中において
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たゞに美しい顔、美しい肌とのみでは、彼は中々満足する事が出来なかった。江戸中の色町いろまちに名を響かせた女と云う女を調べても、彼の気分にかなった味わいと調子とは容易に見つからなかった。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
道子みちこ小岩こいは色町いろまち身売みうりをしたとき年季ねんきと、電話でんわ周旋屋しうせんやと一しよくらした月日つきひとをむねうちかぞかへしながら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
場所は色町いろまち、酒の上の口論、しかも朋輩ほうばいを討ち果したというのでは、どんな贔屓眼ひいきめに見ても弁護のみちがない。切腹の上にいえ断絶、菊地半九郎は当然その罪に落ちなければならなかった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
君江の目にも寐静ねしずまった路地裏の情景が一段なまめかしく、いかにもけ渡った色町いろまちの夜らしく思いなされて来たと見え、言合したように立止って、その後姿を見送った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その代り山の手の芸者が売淫この時よりいよいよ公然黙許の形となり芸者連名帳にれいれいと枕金の高を書出す勢とはなりけり。まづ僕が多年の実歴を回想して市中色町いろまちの盛衰を語るべし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)