自暴酒やけざけ)” の例文
小野はひどく自暴酒やけざけでも仰ったと見えて強か酔っぱらっていましたが、私の顔を見るといきなり私の胸に取り縋って泣き出したのです
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
お袋は頭が痛むと言って結び髪のまま氷袋をつけて奥で寝ていたし、芳太郎もそこらで自暴酒やけざけを飲んであるいて家へ寄りつきもしなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「君には、またゆっくり奢って貰う機会があるよ。それから、悪いことはいわない、今夜はあまり自暴酒やけざけを呑みなさんな」
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
森 うむ、あの晩は大分あちこちで、自暴酒やけざけをやったやつが多かった。面目ないが、おれと池田も、じつはその組で——。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それまで、自暴酒やけざけに酔って、楽屋の蓙に正体なく寝くたれていたお延は、ミリミリッ、グワラグワラという凄まじい物音と共に囲いをがれたので
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が酒が飲めたら自暴酒やけざけでもくらつて、からだこはして、それきりに成つたのかも知れませんけれど、酒はかず、腹を切る勇気は無し、究竟つまりは意気地の無いところから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よくよく生命冥加いのちみょうがあまっちょだと、自暴酒やけざけをあおって、ひょろひょろしながら帰って来たのは、いつぞや新橋から手切を貰って突出つきだされた晩、お君に出会った石原の河岸通。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自暴酒やけざけを飲んで、れているということ。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが城の中にいた妖婆アダムウイッチがはるかにこれを見て、大いに嫉妬する。そしてたまりかねて、自暴酒やけざけを呑む。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あのまま借りている毛抜きずしの二階へ、てん屋物を取りちらして、二人は自暴酒やけざけだった。庄次郎は、ゆうべも屋敷へ帰っていない。今日も帰る気がしない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代りに仕入れた樺太産まれの染福は、自称女子大出の、少し思想かぶれがしていたところから、ある夜自暴酒やけざけに酔って、銀子の晴子と客のことで大喧嘩おおげんかとなり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
初恋の若旦那とは生木なまきつらい目を見せられても、ただその当座泣いて暮して、そして自暴酒やけざけを飲む事を覚えた位のもの、別に天もうらまず人をも怨まず、やがて周囲からしいられるがままに
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自暴酒やけざけでもあるまいが、若い栄三郎、どこでのんだかすこし酔っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そしてすさみきった心の奥に、自暴酒やけざけの酔がどんよりと濁ってくると、お延はついこの間、思いがけなく隅田川で会った春日新九郎の姿をうつつにそこへ描いて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜もまた自暴酒やけざけあおっているであろう、獣のような親爺おやじの顔も目に浮かんで来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「惜しいですなあ。すると、これは取りやめて、以来いらい自暴酒やけざけというわけですか」
「生田からのもどみちで、自暴酒やけざけに酔った京極家の若侍どもが、お嬢様と私を押ッ取り巻き、私はこの通り浅傷を受けた上に、千浪様をさらって如意輪寺にょいりんじの裏へ連れ込んで行きました」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)