細作さいさく)” の例文
「いま蜀中から帰った細作さいさくの報らせによると、黄権の妻子一族は、玄徳の怒りにふれ、ことごとく斬刑に処されたそうであります」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けだし左衛門尉は主人三成の密旨を受けて、当時兎角の噂のあった秀次一家の動静を探るために、細作さいさくとなって聚楽じゅらくの邸へ奉公をしたのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は、素直すなおに伝右衛門の意をむかえて、当時内蔵助が仇家きゅうか細作さいさくを欺くために、法衣ころもをまとって升屋ますや夕霧ゆうぎりのもとへ通いつめた話を、事明細に話して聞かせた。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
早や細作さいさくを、千代田の城の大奥まで入れてあるらしい神尾の口吻くちぶりには、真偽未了ながら、その進行の存外深刻なのに恐怖を抱く程度で、呆れたものもあります。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これを細作さいさく密偵に使役したものらしく、暴露して敵に殺されなかった者は帰ってから優遇せられ、島津氏などでは鹿児島と日向の某地に、随分いかめしい盲僧派の本寺があった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
細作さいさく係りという奴は、実際あぶねえ役目だからな」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
汜水関しすいかんのほうからは、たえず隠密を放って、寄手の動静をさぐらせていたが、その細作さいさくの一名が、副将の李粛りしゅくへ、ある時こういう報告をしてきた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ややもすればはやり勝ちな、一党の客気かっき控制こうせいして、おもむろに機の熟するのを待っただけでも、並大抵なみたいていな骨折りではない。しかも讐家しゅうかの放った細作さいさくは、絶えず彼の身辺をうかがっている。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
而も三成の命をふくんで細作さいさくとなるべく志した行者順慶、当時の下妻左衛門尉は、此の圓一と入魂じっこんであったのを幸いに、彼の盡力に依って短時日の間に当道の瞽官こかんを得たと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこでひそかに細作さいさくを放し、この聖典を盗もうとした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万一、彼に大規模な計略でもあるのではないかと、曹操もうごかず、ひそかに細作さいさくを放って、内情をさぐってみると、そうでもない実情がわかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲斐の武田信玄は徳川方の細作さいさくを掃蕩するために領内の盲人八百人を鏖殺おうさつしたと云う伝説があり、続々群書類従第十教育部所載北条幻庵覚書には、女中が盲人を近づけることの危険を説いて
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
の都へ向って、早馬を飛ばした細作さいさく(諜報員)は、丞相府じょうしょうふへ右の新事実を報告かたがた、つけ加えてこうのべた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呉の方針は、それを旨として、以後、軍は進めて、あえて戦わず、ただ諸方へ細作さいさくを放って、ひたすら情報をあつめ、蜀魏両軍の戦況をうかがっていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細作さいさく(密偵)どもの告ぐるを聞けば、秀吉は急に宿を引き払って、帰国する気配あり、夜立よだちの動き見ゆ——とのことに、これはいかぬと思い直し、万一
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜀の細作さいさくは、早耳に知って、すぐこの異動をも成都に報じた。蜀臣のうち誰もなんとも思う者はなかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おぬしのことだ、用意に抜かりはあるまいが、たった今、細作さいさく(隠密)から耳にしたゆえ、心配の余り告げに来た。護送使の任には、手勢どれほど率いて行く気か」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「家中の里見新兵衛なる者を細作さいさく(しのび)に仕立て、探りとったところによりますると」
もっとも、この前後、正成の手には一つの有利な情報として「関東勢ノ内ニハ頻々ヒンピントシテ内紛ノ騒動絶エズ」という聞えが、味方の細作さいさく(おんみつ)から入ッていたと思われる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「備後どの。その細作さいさく(しのび)はいつ帰るのか。夜が明けるのではあるまいな」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいか。では、きさまたちはこのまま街道を船坂峠まで行って、三石村みついしむらで三日の後を待つのだぞ。またその間も、帝のお道すじには、間断なく、細作さいさく(さぐり)の眼をくばっておけよ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越後にはいっていた徳川家の細作さいさく(第五列)は、すぐ浜松へ、変を知らせた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠密は、此方こちらのみの働きと思うと間違うぞ。内蔵助ほどの男だ、抜け目のあろう筈はない。彼の細作さいさくも、立ち廻って居ろう。或は、兵部の邸のうちにさえ、臭い者がいるかも知れぬ、気をつけてゆけ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、造作ぞうさもないこと、行って問いただしてまいりましょう。——この御営内へ、わけて戦時、え知れぬ若い女が、立ち入ってくるなどは、油断がなりません。敵の細作さいさく(まわし者)やらも知れぬこと」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またべつに放ちおいた細作さいさくの報らせもある筈で——
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「雪中の細作さいさく、さだめし難儀なんぎにあったであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)