簾中れんちゅう)” の例文
いにしえの国主の貴婦人、簾中れんちゅうのようにたたえられたのが名にしおう中の河内かわち山裾やますそなる虎杖いたどりの里に、寂しく山家住居やまがずまいをしているのですから。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
因州なぞの女中方や姫君から薩州さっしゅう簾中れんちゅうまで、かつてこの街道経由で帰国を急いだそれらの諸大名の家族がもう一度江戸への道を踏んで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
毎年のようならば、桃の節句に奥の丸に華やぐ日を、勝頼の簾中れんちゅう一門の老幼は、黒煙に追われながら、新府の館を捨てて落ちた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右に御台みだい、左にご簾中れんちゅうを従えさせまして、吹上御苑ぎょえんに臨時しつらえましたお土俵の正面お席にお着座なさいました。
兵部卿ひょうぶきょうの宮のお心も、源氏の大将の心もあわてた。驚きの度をどの言葉が言い現わしえようとも思えない。宮は式の半ばで席をお立ちになって簾中れんちゅうへおはいりになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして時平が簾中れんちゅう闖入ちんにゆうした時は、座に堪えられず慌てゝ席をはずしたのであったが、やがてその人が車に乗せられて連れて行かれようとするけはいに、又じっとしていられないで
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
桃から山桜へと急ぐ木曾の季節のなかで、薩州の御隠居、それから女中の通行のあとには、また薩州の簾中れんちゅうの通行も続いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
歌い終るのと一しょであった。彼方かなたの頼朝夫妻の席で、って落したように、ばらりッと、れんが落ちた。——その簾中れんちゅうから洩れる怒りの声だった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一匁いくらという高直こうじきのお身おからだをのせながら、右に御台みだい、左に簾中れんちゅう、下々ならばご本妻におめかけですが、それらを両手に花のごとくお控えさせにあいなり、うしろには老女、おつぼね
この日、簾中れんちゅうに、会議のもようを聴いていた呉夫人も、甥の周瑜の器量をたのもしく思って、後に、近く彼を招き
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三左衛門は兵を率いて江戸を出発し、水戸城に帰って簾中れんちゅう母公貞芳院ていほういんならびに公子らを奉じ、その根拠を堅めた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はあの馬籠の宿場の方で、越前の女中方や、尾州の若殿に簾中れんちゅうや、紀州の奥方ならびに女中方なぞを迎えたり送ったりしたいそがしさをまだ忘れずにいる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それも、戦場にあって、留守勝ちとなるせいと、ひとつには、彼女の美貌の聞えがあまりに、諸大名の簾中れんちゅうでもまれなものとうたわれすぎているせいでもあろうが
勝頼とその簾中れんちゅうを始め、かしず数多あまたの上﨟たちや、大伯母の君とか、御むすめ子とか、京の何御前とかいう女性の輿こし塗駕ぬりかごだけでも、いったい何百つづいたろう。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堅固で厳重な武家屋敷のなかにこもり暮らしていたどこの簾中れんちゅうとかどこの若殿とかいうような人たちが、まるで手足の鎖を解き放たれたようにして、続々帰国の旅に上って来るようになった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
簾中れんちゅうそのほか一門の女性までが、天目山てんもくざんのさいごへさして、炎々の下から離散を開始していた日である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
簾中れんちゅうの二夫人も、この一昼夜はまゆの中の蛾のように、抱きあったまま、恐怖の目をふさぎ通していた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふかく御簾ぎょれんを垂れて、四条隆資、二条ノ中将為明、中院ノ貞平らが、衣冠おごそかに奉仕ほうじのていを作って、めったに人も近づけずにいたのだが、衆目はいつか、簾中れんちゅうの人物が
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何后は、彼らからあやされている簾中れんちゅうの人形だったが、兄へは権威を持っていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……私は簾中れんちゅうの御方を見て、これは仔細ありげなと感じましたので、ひそかに、車についた従者の一名に、いかなるわけのお人かとたずねたところ、なんぞ知らん、漢の劉皇叔りゅうこうしゅくの夫人なりと伺って
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さかんな声が、麓の城門から聞えて来た。信長は眼をこらした。彼のそばには、簾中れんちゅうの女房衆もおり、子息たちもいた。もちろん近習小姓は居ならんで、みな朝陽のなかにまばゆげな顔をそろえていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待ちたまえ、ご簾中れんちゅうに伺ってみるから」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)