碇綱いかりづな)” の例文
卯八は料理のため用意した出刄庖丁を取出すと、碇綱いかりづなをブツリと切りました。あとは、に寄つて、馴れない乍ら一と押し、二た押し。
水番小舎ごやの付近に繋留けいりゅうされた小舟四隻に分乗して、湖心にぎ出しましたが、湖底へ碇綱いかりづなを下ろす必要も何もありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
染八の首級くびは、碇綱いかりづなのように下がっている釣瓶つるべの縄に添い、落ちて来たが、地面へ届かない以前まえに消えてしまった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一同いちどう無事ぶじか。』とさけんだのは、なつかしや、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさこゑ同時どうじに、いま一人ひとり乘組のりくんでつた馴染なじみかほ水兵すいへいが、機敏きびん碇綱いかりづなげると、それがうま鐵檻車てつおりくるま一端いつたんとまつたので
沖の鳥貝を掻く船をゆびさして、どの船も帆を三つずつ横向きにかけている。両端から二本の碇綱いかりづなを延しているゆえ、帆に風をはらんでも船は動かない。帆が張っているから碇綱はゆるまぬ。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ここに一つの不可能がしとげられたのだ。非常に滑稽こっけいな空想が許されるならば、青眼鏡は、軽気球の碇綱いかりづなにとりすがって、窓の所までくだって来た、とでも考える外には仕方がないのではないか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
眼前には長い廊下のように続いた板敷がある。白く塗った通風筒がある。柱がある。碇綱いかりづなを巻くための鉄製の器具がある。甲板の欄の線と交叉こうさして、上になり下になりして見える遠い水平線がある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
卯八は料理のために用意した出刃庖丁を取出すと、碇綱いかりづなをブツリと切りました。あとは、に寄って、馴れないながら一と押し、二た押し。
が、何んと言つても年のせゐで、三吉を川へ抛り込んだ時は、もう栓が拔かれて、水が瀧のやうに入つて居ました。仕方が無いから、碇綱いかりづなを切つて、滅茶々々に岸へぎ寄せました
「お燗番かんばん八さんが、碇綱いかりづなを切つて投げた庖丁が當つたんです」