目釘めくぎ)” の例文
二度目に後藤の刀の目釘めくぎが抜けて、その刀が飛んだ。そこで中井が受けた。中井は受けそこねて、頭部を斬られながらその場に倒れた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
太郎左衛門はとこ刀架かたなかけにかけた刀をおろして、それを半ば抜いてちょと眼を通し、それが済むと目釘めくぎに注意して寝床にいた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「切って切って切りくる時節がいよいよ到来しましたかな」数馬は元気よくこう云いながらそっと刀の目釘めくぎをしめす。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なんでもいい、人さえ斬れるところなら、どこへでも顔を出したい丹下左膳、もう濡れ燕の目釘めくぎにしめりをくれて、伊賀の暴れん坊とさきをあらそう。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
待てと土方の声がかかった時分には、既に刀の下緒は襷にあやどられ、愛刀志津三郎の目釘めくぎ湿しめされていた。
そのうちに僕たちはあのラマルティーヌという小路へやって来た。そこには、重ねて目釘めくぎを打った切石が試験的に敷いてあるのだ。ここへ来ると君の顔は晴れやかになった。
まるで、成っていない刀の味だったが、気概きがいは偉い、意気は愛すべしだ——と思って、今日は、貴公の訪問を、実は、目釘めくぎをしめして待ちかまえていたのに。——勝負もせず、帰るのか
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気が付いて見ると、槍の目釘めくぎの穴には、強靱きょうじんな細いひもが結んであり、その紐に引かれて、槍の穂は欄間の蔀に引きあげられ、やがてそこから手が出て、器用に外へ引出してしまいました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
刀の下緒さげおを取りましてたすきといたし、裏と表の目釘めくぎ湿しめし、養父相川新五兵衞から譲り受けた藤四郎吉光の刀をさし、主人飯島平左衞門より形見に譲られた天正助定を差添さしぞえといたしまして
彼は刀の目釘めくぎをしめし、草履をぬいで足袋はだしになった。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
闇黒やみに、何やらシットリとしめった空気が流れている。しのぎからむね目釘めくぎへかけて、生温かい血でぬらぬらする大刀濡れ燕を、枯れ細った左手に構えた左膳は
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
比べてみたところが、実によいあんばいに、元のそちらの刀の鞘へはまるのです、目釘めくぎの穴までが、ピタリと合うのはあつらえたようですから、少し手を入れて、中身を
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
孝助は仮令たとえ如何いかなるわざわいがあっても、それを恐れて一歩でも退しりぞくようでは大事を仕遂げる事は出来ぬと思い、刀にそりを打ち、目釘めくぎ湿しめし、鯉口こいぐちを切り、用心堅固に身を固め、四方に心を配りて参り
盃が巡廻じゅんまわりになる、随分急でもあるし、命がけの仕事にかかる前だが、至って落着きすましたもの、屋敷の金を残らず分配して各〻肌につけ、そろそろ刀の目釘めくぎを改め、足拵えにかかっていると
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目釘めくぎがない」
「だが、しっかり、目釘めくぎ湿しめしていておくんなさいね」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
守人はひそかに刀の目釘めくぎを湿した。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「親方、目釘めくぎを外してもいいかね」