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白痴
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あはう
白痴が
泣出しさうにすると、
然も
怨めしげに
流盻に
見ながら、こはれ/\になつた
戸棚の
中から、
鉢に
入つたのを
取出して
手早く
白痴の
膳につけた。
(あゝ、あゝ、)と
濁つた
声を
出して
白痴が
件のひよろりとした
手を
差向けたので、
婦人は
解いたのを
渡して
遣ると、
風呂敷を
寛げたやうな、
他愛のない、
力のない
椽側に
居た
白痴は
誰も
取合はぬ
徒然に
堪へられなくなつたものか、ぐた/\と
膝行出して、
婦人の
傍へ
其の
便々たる
腹を
持つて
来たが、
崩れたやうに
胡座して、
頻に
恁う
我が
膳を
視めて、
指をした。