登攀とうはん)” の例文
種々の技能があったうちでも、特にツーロン徒刑場をしばしば脱走した経験から彼は、読者の記憶するとおり、登攀とうはんの妙技に長じていた。
径は恐ろしく急で、継続的で、休もうと思っても平坦な山脊も高原もない。図80は我々が測定した登攀とうはんの角度である。
エヴェレスト登攀とうはんでもそうであるが、最後の一歩というのが実はそれまでの千万歩よりも幾層倍むつかしいという場合が何事によらずしばしばある。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
雲仙を知ろうとするものの、是非ぜひとも登攀とうはんせねばならぬ最美な渓谷の一つであることを、私自らその熔岩流の内部にって初めて発見したのである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
彼らは、そこを「蓮中の宝芯マニ・バードメ」と呼んで登攀とうはんをあせるけれど、まだ誰一人として行き着いたものはない。そのうえ、古くは山海経せんがいきょうでいう一臂人いっぴじん棲所すみか
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この想像の中に、彼のあらゆるひがみもおごりも、またいらだたしさもが発してゐる。曾根至はこの登攀とうはんについての告知を、そ知らぬ顔で目をつむつて聞いた。
垂水 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ルックザックの底に残っていたわずかな菓子などを片附けて落着くと、山の歌がくちずさまれる。そしてこの登攀とうはんの喜びや、心に生々とよみがえる岩の回想を語り合う。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
執拗しつよう登攀とうはんをつづけ出した頃には、空は一層低くなり、いままではただ一面にざしているように見えた真っ黒な雲が、いつの間にか離れ離れになって動き出し
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして七日に約一トンの機材を、二台の大型ジープに積みこんで、マウナ・ロア登攀とうはんの途についた。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
前夜から、われわれは、リュックサックを肩に負い、必死で、縦井戸たていど登攀とうはんしつつあるのであるが、老人である私には、腕の力も腰の力も弱くて、一向はかがいかない。
これだけでは十分な測量が出来ませんからで、技術上是非ぜひ劍山に二等測量標の建設を必要とするのであります、前年来屡次るじ登攀とうはんを試みましたが毎時登る事が出来ず失敗に帰しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
頂上ちようじようちかくに茶店ちやみせ宿屋やどや數軒すうけんあり、冬季とうきでも登攀とうはん不可能ふかのうでない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
闊歩横行くわつぽわうかう登攀とうはん跋渉ばつせふ、そんなことはおちやで。——
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その異常な登攀とうはんをやるには自分一人で全力をつくさなければならなかった。少しの荷があっても、重力の中心を失って下に落ちるにきまっていた。
そして夏になるのを待ち兼ねて、セントー・ハヤオが報じたN県東北部T山をK山脈へ向う中間の地点へ登攀とうはんしました。其処そこ近辺きんぺんを幾日も懸ってすっかり調べ上げました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、それは上空からの偵察で登攀とうはんの手がかりを見つけにゃならんし、じつに、飛行回数百二十一という記録だった。ところが、白、黄、青の三外輪はひっきりなしの雪崩なだれだ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「劍山登攀とうはん冒険談」なる、昨四十年七月末『富山日報』にでたる切抜を郵送せられ、かつ「先日山岳会第一大会に列席して諸先輩の講演、ことに志村氏の日本アルプスの話など、うけたまわり、 ...
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
その恐ろしい登攀とうはんのうちに大部分は顔の形もわからないまでに傷を受け、血潮のために目も見えなくなり、憤激し、凶猛となって、二階の広間に侵入した。
氷原と吹雪、氷河と峻嶮しゅんけん登攀とうはん。奈翁のアルプス越えもかくやと思われるような、荷を吊りあげ、またおのぶサンを引きあげる一本ロープの曲芸。そのうち、落伍者が続出する有様。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鉄骨の表面は、海水にじめじめと濡れていて、リベットに足をかけると、そのままずるずると滑りおちて腕をすりむいたり、足の生爪をはがしたり、登攀とうはんはなかなか容易な業ではなかった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一八一五年六月十八日には、雨のためにその険しさはいっそう増し、泥濘でいねいのためにその登攀とうはんは、いっそう困難になり、単によじのぼるばかりでなく泥濘に足を取られまでした。