生立おいたち)” の例文
さまでに世の中の事というものが分らない生立おいたちが、馴染なじむに従って知れれば知れるほど、梓は愛憐あいれんの情の深きを加えた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お勢の生立おいたちの有様、生来しょうらい子煩悩こぼんのうの孫兵衛を父に持ち、他人には薄情でも我子には眼の無いお政を母に持ッた事ゆえ、幼少の折より挿頭かざしの花、きぬの裏の玉といつくしまれ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何時いつも編年体であって其人物の生立おいたちから筆を立てゝ、事実を順序正しく書くものですから、最初から悪人、善人、盗賊と知れて了って、読者を次へ/\と引く力が無い。
探偵物語の処女作 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
お雪はまだ其本名をも其生立おいたちをも、問われないままに、打明うちあける機会に遇わなかった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、勝川のおばさんの生立おいたちをきくと無理はなかった。彼女としては、女中同様に追廻して使った姪に、さんの字をつけてよぶだけでさえ小癪こしゃくにさわる——そうした気風の彼女だった。
あの野郎の生立おいたちから国を出るまでのことを残らず知ってるのが俺だ、俺にああされてあの野郎には文句が言えねえ筋があるんだ、俺にああされたから野郎は本望ぐれえに心得ていやがるだろう
天狗てんぐ姿すがた不思議ふしぎでございますが、その生立おいたちは一そう不思議ふしぎでございます。
子女幼時の記事又私のかんがえに、人間は成長して後に自分の幼年の時の有様ありさまを知りたいもので、他人はイザ知らず私が自分で左様そう思うから、筆まめな事だが私は小供の生立おいたちの模様をかいて置きました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これが鹽原多助の生立おいたちでございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母はもとより天道の大御心おおみこころにはかなわぬ生立おいたち、自分の体をにえにして、そして神仏かみほとけの手で、つまり幽冥ゆうめいの間に蝶吉の身を救ってやろう、いずれ母娘おやこが、揃って泥水稼業というは
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)