玉鬘たまかずら)” の例文
東の住居すまいの西の対の玉鬘たまかずらの姫君は南の寝殿に来て、こちらの姫君に面会した。紫夫人も同じ所にいて几帳きちょうだけを隔てて玉鬘と話した。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いま一人は、源氏が雨夜階定あまよのしなさだめ以後に得た新しい恋人の夕顔が、それより先に頭中将との間に生んでいた子で、玉鬘たまかずらと呼ばれている。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
彼女は藤色の衣をまとい、首からは翡翠ひすい勾玉まがたまをかけ垂し、その頭には瑪瑙めのうをつらねた玉鬘たまかずらをかけて、両肱りょうひじには磨かれたたかくちばしで造られた一対のくしろを付けていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
玉鬘たまかずら玉簾たまだれ珠衣たまぎぬなどというのがありますが、これらはかたちのよさをほめ、清らかさをほめる言葉でありますから、それとおなじように、清水をも玉水、玉の井、玉川などとほめるのです。
玉鬘たまかずらに右近中将は深く恋をして仲介役をするのは童女のみるこだけであったから、たよりなさにこの中将を味方に頼むのであった。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼女の頭髪には、山鳥の保呂羽ほろばを雪のように降り積もらせたかんむりの上から、韓土かんど瑪瑙めのう翡翠ひすいを連ねた玉鬘たまかずらが懸かっていた。侍女の一人は白色の絹布を卑弥呼の肩に着せかけていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
がんの卵がほかからたくさん贈られてあったのを源氏は見て、蜜柑みかんたちばなの実を贈り物にするようにして卵をかごへ入れて玉鬘たまかずらへ贈った。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして、頭から静かに、玉鬘たまかずらを取りはずし、首から勾玉をとりはずすと、長羅の眼を閉じた顔を従容しょうようとして見詰めていた。すると、彼女の唇の両端から血がたらたらと流れて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
玉鬘たまかずらを官職につけておいて情人関係を永久に失うまいとすることなどを、どうして大臣に観測されたのであろうと薄気味悪くさえなった。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
自身でも親の心になりきってしまうことが不可能な気がするのか、実父に玉鬘たまかずらの存在を報ぜようかという考えの起こることも間々あった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こんなふうに玉鬘たまかずら夫人は思っているのであったが、男はこの望みどおりに妹の姫君へ恋を移すのは不可能に思っているのである。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と出がけに源氏はしんみりと言うのであったが、玉鬘たまかずらはぼうとなっていて悲しい思いをさせられた恨めしさから何とも言わない。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
帝といえども男性に共通した弱点は持っておいでになるのであるからと考えて、玉鬘たまかずらはただきまじめなふうで黙って侍していた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
尚侍ないしのかみになって御所へお勤めするようにと、源氏はもとより実父の内大臣のほうからも勧めてくることで玉鬘たまかずら煩悶はんもんをしていた。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
気をめいらせてばかりいる玉鬘たまかずらを、大将は恨めしく思いながらも、この人と夫婦になれた前生の因縁が非常にありがたかった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今度も玉鬘たまかずらは心配のあまり自身の手でも祈祷きとうをさせていたが、そうしたことも不死の薬ではなかったから効果は見えなかった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
返辞のできることでもなくて、玉鬘たまかずらがただ吐息といきをついているのが美しく感ぜられた時に、中将の心にはおさえ切れないものがき上がってきた。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こう源氏はまじめに言っていたが、玉鬘たまかずらはどう返事をしてよいかわからないふうを続けているのもさげすまれることになるであろうと思って言った。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
屏風びょうぶなども皆畳んであって混雑した室内へはなやかな秋の日ざしがはいった所に、あざやかな美貌びぼう玉鬘たまかずらがすわっていた。源氏は近い所へ席を定めた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
目だたせないようにはしていたが、左大将家をもってすることであったから、玉鬘たまかずら夫人の六条院へ出て来る際の従者の列などはたいしたものであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
玉鬘たまかずら尚侍ないしのかみの生んだ故人の関白の子は男三人と女二人であったが、どの子の未来も幸福にさせたい、どんなふうに、こんなふうにと空想を大臣は描いて
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かつら川の船橋のほとりが最もよい拝観場所で、よい車がここには多かった。六条院の玉鬘たまかずらの姫君も見物に出ていた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏が東の町の西の対へ行った時は、夜の風が恐ろしくて明け方まで眠れなくて、やっと睡眠したあとの寝過ごしをした玉鬘たまかずらが鏡を見ている時であった。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏は玉鬘たまかずらに対してあらゆる好意を尽くしているのであるが、人知れぬ恋を持つ点で、南の女王にょおうの想像したとおりの不幸な結末を生むのでないかと見えた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内大臣がはなやかできれいな人と見えながらもえんな所の混じっていない顔に玉鬘たまかずらの似ていることを、この黄色の上着の選ばれたことで想像したのであった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今思ってみてもきわめてりっぱなことであったと、玉鬘たまかずらのこともこのふがいない人に比べてお思われになった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
新しい娘を迎えて失望している大臣のうわさを聞いても、源氏は玉鬘たまかずらのことを聞いた時に、その人はきっと大騒ぎをして大事に扱うことであろう、自尊心の強い
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
不幸だったころと今とがこんなことにも比較されて考えられる玉鬘たまかずらは、この上できるならば世間の悪名を負わずに済ませたいともっともなことを願っていた。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただ堪えがたい心だけを慰めるためによく出かけて来たが、玉鬘たまかずらのそばに女房などのあまりいない時にだけは、はっと思わせられるようなことも源氏は言った。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
玉鬘たまかずらがここへ住んでまだ日の浅いにもかかわらず西の対の空気はしっくりと落ち着いたものになっていた。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大臣やその夫人に対する義理と思って、なお娘を忘れぬ志があるなら、その時には誠意の見せ方があると、妹君をそれにあてて玉鬘たまかずら夫人は思っているのである。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宮がもしおかくれになれば玉鬘たまかずらは孫としての服喪の義務があるのを、知らぬ顔で置かせては罪の深いことにもなろうから、宮の御病気を別問題として裳着を行ない
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
何年かを中に置いてお目にかかる玉鬘たまかずら尚侍ないしのかみは恥ずかしく思いながらも以前どおりに親しいお話をした。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏は歎息たんそくした。自分の実父との間にはこうした感情の疎隔があるのかと玉鬘たまかずらははじめて知った。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これ以上な音が父には出るのであろうかと玉鬘たまかずらは不思議な気もしながらますます父にあこがれた。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
左大将夫人の玉鬘たまかずら尚侍ないしのかみは真実の兄弟に対するよりも右大将に多く兄弟の愛を持っていた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
などと院はお言いになって、身にしむことも、恋しい日のこともお思いにならないのではないのに、玉鬘たまかずらがたまたま来ても早く去って行こうとするのを物足らず思召すようであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
今日の拍子合わせの笛の役には子供を呼ぼうとお言いになって、右大臣家の三男で玉鬘たまかずら夫人の生んだ上のほうの子がしょうの役をして、左大将の長男に横笛の役を命じ縁側へ置かれてあった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そんなことも聞いて玉鬘たまかずらは親であってもどんな性格であるとも知らずに接近して行っては恥ずかしい目にあうことが自分にないとも思われないと感じた。右近もそれを強めたような意見を告げた。
源氏物語:27 篝火 (新字新仮名) / 紫式部(著)
玉鬘たまかずらは言っていた。もっともなことである。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)