猫撫声ねこなでごえ)” の例文
旧字:猫撫聲
しかも娘の思惑おもわくを知ってか知らないでか、ひざで前へのり出しながら、見かけによらない猫撫声ねこなでごえで、初対面の挨拶あいさつをするのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
可哀かわいそうに! (猫撫声ねこなでごえで、彼女は、彼の髪の毛の中に手を通し、それをひっぱる)——涙をいっぱいめてるよ、この子は……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私共には眼尻にしわをよせて、猫撫声ねこなでごえでものをいう主人が、召使いに対すると、こうも横柄おうへいになるものかと、私は少からず悪感あくかんもよおしました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
猫撫声ねこなでごえを出し、ああ、皆田さん、あんたも達者で何よりで、と彦太郎も応じて、むかつく気持を押えかねながら、顔は笑顔になって、会釈えしゃくした。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
会議の時に金壺眼かなつぼまなこをぐりつかせて、おれをにらめた時はにくい奴だと思ったが、あとで考えると、それも赤シャツのねちねちした猫撫声ねこなでごえよりはましだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
換言すれば若い女を見ると、直ぐ猫撫声ねこなでごえになって、半可な文学論か、仕入の悪い映画通を並べて殆んど無技巧にその心を捉えるすべを心得ているのでした。
「二言目には、七兵衛さん、七兵衛さんと、馴々なれなれしくおっしゃるが、どうしてまた、わしの名前までそう軽々しく御承知だえ。その猫撫声ねこなでごえが油断がならねえ」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「才兵衛さんや、」わが子にさんを附けて猫撫声ねこなでごえで呼び、「人は神代かみよから着物を着ていたのですよ。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
折々は魔法みたいな事をして愚民ぐみんを驚かしたそうだ、始終猫撫声ねこなでごえをして女子供おんなこどもを手なずけたそうだなど、その他あらゆる悪口をもって、彼は見事に失敗したなどといったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
狡猾こうかつたくらみを胸に隠して紋十郎は猫撫声ねこなでごえで白痴の粂太をそそのかすのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「厄介だよ。あの女にかかると今までも随分厄介な事がだいぶあった。猫撫声ねこなでごえで長ったらしくって——わしきらいだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日の道庵の猫撫声ねこなでごえが大へんに気味が悪いのです。米友にとっては、女軽業おんなかるわざのお角というものが苦手であるとは違った呼吸で、この道庵もまた苦手であります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いかにおぬしがおしはかろうともの、人間の力には天然自然の限りがあるてや。悪あがきは思い止らっしゃれ。」と、猫撫声ねこなでごえを出しましたが、急にもう一度大きな眼を仇白く見開いて
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が九月のはじめ、甲府からの三鷹の、畑の中の家に引越して来て、四日目の昼ごろ、ひとりの百姓女がひょっこり庭に現われ、ごめん下さいましい、と卑屈な猫撫声ねこなでごえを発したのである。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
猫撫声ねこなでごえ! そりゃ、どんな声をいうんだい?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
八五郎が猫撫声ねこなでごえで戸を叩くと
と部屋中をぎょろりと見まわして、それから急に猫撫声ねこなでごえ
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
といって暫く休み、いやに猫撫声ねこなでごえ
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
障子の外から猫撫声ねこなでごえがしました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
猫撫声ねこなでごえ
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)