きちがい)” の例文
晩年則重は和歌きちがいであったから、いかさま辞世の一首があるべきだと云うので、何者かゞ後から偽作したように疑えないでもない。
日本きちがいとも言いたいほど日本贔負びいきの婦人であった。その人が岸本を紹介してくれたのであった。老婦人は居間の方へ岸本を連れて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
材木屋やまかわの若い者で、蔭日陽かげひなたなく働く好人物おひとよしであるがタッタ一つの病気は芝居きちがいで、しかも女形おんながたもって自任しているのが、玉にきずと云おうか、疵に玉とでも云うのか。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
財産を無くして、きちがいになる。世の中が思う様にならぬでヤケを起し、太く短く世を渡ろうとしてさまざまの不心得をする。鬼にいじめられて鬼になり他の小児こどもの積む石を崩してあるくも少くない。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
財産を無くして、きちがいになる。世の中が思う様にならぬでヤケを起し、太く短く世を渡ろうとしてさま/″\の不心得ふこころえをする。鬼にいじめられて鬼になり、他の小児の積む石を崩してあるくも少くない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あの中にある風精ジルフェの印象を一つに集めて、それに観照の姿を浮ばしめる——その狂言の世界だ。けっして、あのきちがい詩人が、単に一個の想い出の画を描くだけで、満足するものではないと思ったからだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
思い屈したあまり、彼はどうかすると裸体はだかで学校のグラウンドでも走り廻りたいような気を起して、自分で自分のきちがいじみた心にあきれたこともある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きちがいになった女が毎晩この辺をうろうろする。なんでも君、貧に迫って自分の子供を殺したんだそうだ。僕はその話を
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「僕等の阿爺おやじきちがいに成ったのも、この幽霊の御蔭ですネ……」と復た彼は姉の方を見て言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
厳粛な宗教生活を送った人達の生涯を慕うそばから、自分の内部なかきざして来るきちがいじみたものを
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本が同年配の他の青年の知らないような心の戦いを重ねたのもその憂鬱の結果であったが、しかし彼はきちがいじみたという程度に踏みこたえた。父のは、それが本物であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
書きました。ああきちがい……私のようなものが世の中に居るのは間違なんで御座いましょう……
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
責め抜いた残酷むごたらしさ——沈黙を守ろうと思い立つように成った心のもだえ——きちがいじみた真似まね——同窓の学友にすら話しもせずにあるその日までの心の戦を自分の目上の人達がどうして知ろう
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「何だか俺はほんとにきちがいにでも成りそうだ」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)