片割かたわれ)” の例文
真実の私の過去は、やはり呉一郎と双生児ふたごで、幼い時に何かの理由で別れ別れになっていたその片割かたわれかも知れないのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
謂ってみりゃ支那人の片割かたわれではあるけれど、婦人だから、ねえ、おい、構うめえと思って焚火たきびであっためてやると活返いきけえった李花てえむすめで、此奴こいつがエテよ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たといかたき片割かたわれ数人を切殺すとも、目指す敵の蟠龍軒を討洩らし、其の儘相果て申すも残念至極でござります故、瓦をめくり草の根を分けても彼を尋ねいだ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
甲野さんは静かに茶碗をおろして、首を心持藤尾の方へ向け直した。藤尾は来たなと思いながら、またたきもせず窓を通してうつる、イルミネーションの片割かたわれを専念に見ている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ホラ、君はもう忘れたのかい。例の有名な君の片割かたわれだよ、双生児ふたごの片割だよ。菰田源三郎げんざぶろうさ」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やうやう昇れる利鎌とかまの月は乱雲らんうんりて、はるけこずゑいただきしばらく掛れり。一抹いちまつやみを透きて士官学校の森と、その中なる兵営と、その隣なる町の片割かたわれとは、ものうく寝覚めたるやうに覚束おぼつかなき形をあらはしぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吉原のおはぐろどぶのほの暗き中に光れる櫛の片割かたわれ
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
いつて見りや支那人チャン片割かたわれではあるけれど、婦人だから、ねえ、おい、構ふめえと思つて焚火たきびであつためて遣ると活返いきけえつた李花てえむすめで、此奴こいつがエテよ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やはり「キの字」の片割かたわれらしいぞ。眼付き風付ふうつき何やらおかしい。非人乞食に劣らぬ姿で。道のほとりにかばんを投げ出し。駄声だごえはり上げ木魚をチャカポコ。昼の日中ひなかに外聞さらす。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分は親戚の片割かたわれとして、お貞さんの結婚式に列席するよう、父母から命ぜられていた。その日はちょうど雨がしょぼしょぼ降って、婚礼には似合しからぬびしい天気であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今夜孝助様に斬殺きりころされるのも心がら、天罰で手前達てめえたち当然あたりまえだが、坊主が憎けりゃ袈裟までのたとえで、此奴こいつかたき片割かたわれと己までも殺される事を仕出来しでかすというは、不孝不義の犬畜生め、たった一人の兄妹きょうだいなり
屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割かたわれ月を見上げながら、洗いさらしの綿ネルの単衣ひとえ一枚に細帯を一つ締めて、三階の物置の片隅に敷いてある薄ッペラな寝床から脱け出した。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)