みの)” の例文
また寸時も早く逃出のがれいでんと胸のみ轟かすほどに、やがて女はわが身を送出でて再び葡萄棚の蔭を過ぐる時みのれる一総ひとふさの取分けて低く垂れたるを見
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
穀物はすでにみのりきって、今にも刈り取られるのを待っているように見えた。田では早稲わせは刈り終られ、今や中手の刈り入れで百姓は忙しそうに見えた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
町の裏に繁っていた森も年々にり尽されて、痩せ土には米もみのらないのであった。唯一の得意先であった足尾の方へ荷物を運ぶ馬も今は何ほども立たなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
みのった葡萄畑の彼方に白い壁の家が一つ……そこは彼の生れた家なのだ。酒のやうに醗酵した空気や、色彩や、人情が溶けて流れる。だが、そのうちに睡眠が彼を揺籃へ連れて行く。
(新字旧仮名) / 原民喜(著)
「蜜柑の色がつくのをあたしは見たいわ、あれが一面にみのつたら綺麗でせう?」
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
草樹を日の光にりて発萌せしむるも、百花をみのらして菓実とならしめ、以て山野を富実ふうじつならしむるも、皆なこの精気の致すところなり、吾等人類をあひ協和せしめ、相擁護せしむるもまた。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
みのりさえすれば、すぐにかまを入れて収穫するのだ
果物をみのらす日の光の暖さは、やがて果物を腐らす日の光ではないか。現實がなければ産れない理想は決して現實と並行しない。何たる謎、矛盾であらう。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
彼女の肉体はみのり、真白の皮膚はかたく張り切り、ぽったりしたほお林檎りんごのようにあかかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
菊の花しおるるまがきには石蕗花つわぶき咲き出で落葉らくようの梢に百舌鳥もずの声早や珍しからず。裏庭ののほとりに栗みのりて落ち縁先えんさきには南天なんてんの実、石燈籠いしどうろうのかげには梅疑うめもどき色づきめぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それは、廿三歳と云へば成熟しきつた女の身體の、丁度みのつた果物くだものの枝にとゞまり得ぬと同じく、あらゆる慾情を投げ掛けて凭れかゝるべき強い力のある男の腕を求める其の悶えの爲めに違ひない。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
葡萄ぶどうの棚にみのりたる葡萄つまんと我は久しく