点燈頃ひともしごろ)” の例文
新字:点灯頃
もうその時は点燈頃ひともしごろで、部屋の中は暗かったが、彼は故意わざと火を呼ばず、黄昏たそがれの微光の射し込む中でいつまでも坐って眺めていた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この夜は別して身をきよめ、御燈みあかしの数をささげて、災難即滅、怨敵退散おんてきたいさんの祈願をめたりしが、翌日あくるひ点燈頃ひともしごろともなれば、又来にけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
で、それからは毎夕点燈頃ひともしごろになると、何処いずくよりとも知らず大浪の寄せるようなゴウゴウというひびきと共に、さしもに広き邸がグラグラと動く。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
唱歌終りて葉石の答礼あり、それより酒宴は開かれ、各〻おのおの歓を尽して帰路につきたるは、やが点燈頃ひともしごろなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
最早、天地、ところへだつたやうだから、其のまゝ、銃孔じゅうこうを高くキラリとり上げた、星ひとツ寒く輝く下に、みちも迷はず、よるになり行く狭霧さぎりの中を、台場だいばに抜けると点燈頃ひともしごろ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
病気と云って学校へもゆかず打臥して居たが、点燈頃ひともしごろむっくりおき戸外おもてへ出で、やがて小さな鉄鍋に何やら盛って帰って来て、また床に這入って夜の一時とも思う頃徐々そろそろ頭を挙げ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
三日目は、午頃来ひるごろからの雨、蚊が皆家の中に籠つた点燈頃ひともしごろに、重兵衛一人、麦煎餅を五銭代許り買つて遣つて来た。大体の話はて了つたので、此夜は主に重兵衛の方から、種々の問を発した。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
家の娘おあさの小花さんが待つておいでなれば帰にはおよりでせうねといふをうしろに聞きて、朝倉にしは点燈頃ひともしごろなり、こちらは一中を二段まで聞かせられ、夕飯もそのまま済ました処、本人の兼吉のみか
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すなわち夜這星よばいぼし真先まっさきに出向いて、どこの会でも、大抵点燈頃ひともしごろが寸法であるのに、いつも暮まえ早くから大広間の天井下に、一つ光って……いや、光らずに、ぽつんと黒く、流れている。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうして一行は馬入川も越し点燈頃ひともしごろに小田原へはいった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何処どこか姿が見えなくなって、木樵きこりが来て、点燈頃ひともしごろ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)