漆紋うるしもん)” の例文
びっしょりになった浴衣を着換えた神尾主膳もまた、同じように生平の漆紋うるしもんで、前の座敷にさかずきを手にしながら待っていました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
漆紋うるしもん麻裃あさがみしもに朱鞘の長刀なががたなを横たへて、朝夕「あんちおきや」の帝の御所を守護する役者の身となつたが、さいはひここに功名手がらをあらはさうず時節が到来したと申すは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
漆紋うるしもんの、野暮ったい古帷子ふるかたびらの前を踏みひらいて毛脛を風になぶらせ、れいの、眼の下一尺もあろうと思われる馬鹿長い顔をつんだして空嘯うそぶいているさまというものは、さながら
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
御家人ごけにん旗本のあいだには黄平きびらの羽織に漆紋うるしもん、それは昔し/\家康公が関ヶ原合戦の時に着て夫れから水戸の老公が始終しじゅうソレをして居たとかと云うような云伝いいつたえで、ソレが武家社会一面のおお流行。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きびらの洗いざらし、漆紋うるしもんげたのをたが、肥っておおきいから、手足も腹もぬっと露出むきでて、ちゃんちゃんをはおったように見える、たくましい肥大漢でっぷりものがらに似合わず、おだやかな、柔和な声して
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御家人ごけにん旗本はたもとの間の大流行は、黄白きじろな色の生平きびらの羽織に漆紋うるしもんと言われるが、往昔むかし家康公いえやすこうが関ヶ原の合戦に用い、水戸の御隠居も生前好んで常用したというそんな武張ぶばった風俗がまた江戸にかえって来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その男は古風な漆紋うるしもんのついた、如何いかがはしい黄びらを着用してゐる。この着物がどうもさつきから、散々槍玉に挙げられてゐるらしい。現に今も年の若い、髪を長くした先生が
着物 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)