滅茶めちゃ)” の例文
一番不可解なことは、それだけ持って行けばよさそうなものを、盗った後の器械を床にぶちつけて、滅茶めちゃ苦茶に壊してあることである。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
地震のような家鳴やなりが次に起った。ふすまも障子も滅茶めちゃ滅茶に踏みあらして、更に、座敷ざしきの真ん中へ、樽神輿をほうりだしたのである。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
資本主義も社会主義も有りはしない、そんなことは昼寝の夢に彫刻をした刀痕とうこんを談ずるようならちも無いことで、何も彼も滅茶めちゃ滅茶だった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
他の客も、山崎の意見の滅茶めちゃ苦茶なのにあきれながら、しかし、いまのこの場合、原田にお収めを願うのは最も無難と思ったので
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
妾は非常な権幕けんまくで、二階へ上がってきたのだが、あんまり思いがけない言葉をきいたので拍子抜けがして、予定のプログラムが滅茶めちゃ々々になった。
こんなに遅く、戸を叩いたりして外聞が悪いからと言うもんだから、まあなだめて家まで送りとどけたんだけれど、自動車のなかで滅茶めちゃ苦茶にキスされちゃって……。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、その言葉がいまにも自分の身内へ飛び込んできて、自分の心臓を滅茶めちゃめちゃに噛み荒らすような気がするのだった。紀久子の心臓は熱病患者のように燃えながら顫えた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
クリストフは、楽長が滅茶めちゃな演奏に気づいて、管弦楽をやめさせ、初めからやり直さしてくれるだろうと、しいて思い込もうとした。もはや各楽器がいっしょに鳴ってはいなかった。
クイックシルヴァはパーシウスの、自分ではどうすることもできない活発さを面白がりました。そして、まあそう滅茶めちゃに急がないで、隠兜かくれかぶとを待っていなくちゃいけないよ、と言いました。
何ぼわたしが滅茶めちゃだって、今更重ちゃんをそっちのけにして外の男と一緒になろうなんてそんな事は夢にも考えたことはないわ。浮気は浮気で、本心から迷うなんてことは決してないわ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
現に今でも君の方から先にあの青年を『自分と双生児ふたごに違いない』なぞと信じて来られると、吾輩の話の筋道がスッカリこんがらがって滅茶めちゃになってしまうから一寸ちょっと予防注射をこころみた訳さ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ドールン まあまあまあ、君……そんな滅茶めちゃな。……いけないなあ。
とどめのかわりに周馬とお十夜がまたひと太刀ずつ万吉へ滅茶めちゃうちを浴びせた。どこをかすったか、周馬の刀はピクリとしたかれの満顔をくれないにしてすてて行った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、あの人は突然、妾の首にとびついて、左の耳のあたりに滅茶めちゃ々々に接吻キッスしたかと思うと
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
耳ざとい都の人にはいち早くこの珍妙の裁判のうわさがひろまり、板倉殿も耄碌もうろくしたか、紛失の金子の行方も調べずに、ただ矢鱈やたらに十人をしかって太鼓をかつがせお宮参りとは、滅茶めちゃ苦茶だ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御蔭おかげで三年の後半期の試験の方は滅茶めちゃ苦茶になってしまって、随分成績も悪かったらしい。講義なども半分近く失敬したようである。この方は先生に知れるとしかられるので、なかなか苦心をした。
わたしはすぐに死なねばなりませんし、折角ここまでしのんでかくしおおせてきた秘密があばかれては、夫の名誉も滅茶めちゃ々々になってしまうのですから、お話はそれっきりです。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
たしかに笑って、すっと消えた。僕は起きてカアテンをはねのけて見たが、何も無い。へんてこな気持だった。寝呆ねぼけたのかしら。いくらマア坊が滅茶めちゃな女だって、まさか、こんな時間に。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『師匠、と、とんでもない。……滅茶めちゃだ、そんなお体で』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ、不動明王摩利支天まりしてん、べんてん大黒、仁王におうまで滅茶めちゃ苦茶にありとあらゆる神仏のお名をとなえて、あわれきょう一日の大難のがれさせたまえ、たすけ給えと念じてのさき真暗
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
滅茶めちゃ滅茶に踏みにじられては、乱戦をひろげて行く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「乱心? それあ、また滅茶めちゃだ。僕は艶聞えんぶんか何かだと思っていた。ばかばかしい。見たら、わかるじゃないか。どこから、そんな噂が出たのだろう。ははあ、わかった。叔父さんの宣伝だな?」
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)