まる)” の例文
旧字:滿
「女の子で。そうですか、もうまる一つに近いにしては痩せている。乳がよく出ないので? そいつあいけねえ、かあいそうに」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたのお案じもわたくしは能く存じて居りまするが、さっぱり若旦那さまの方からお音信たよりがございません、昨年から引続きまる一年のになりまするのに、お手紙一つまいりませんから
私とはまる七年近くも一緒にいて、それで私がまだ現在お前の親の家にいる間にそんなことをしたかと思うと、どれほど私の方でああ済まぬことをした、苦労をさした、気の毒である
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
月不足つきたらずおまけに乳が無かったもんですから、まる二月とはその児も生きていなかったそうですよ——しかし、旦那も正直な人サ——それは気分がやさしいなんて——自分が悪かったと思うと
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は英語を習い始めてまる四年になるが、舶来のは初めて耳にする。グッド・アフタヌーンが分った丈けで、残余あとっとも歯が立たない。野崎君も同感らしく、ポカンとして首を傾げていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あとで猿は、砲術長の発案で、まる二日、絶食の懲罰をうけたのですが、滑稽ではありませんか、その期限が切れない中に、砲術長自身、罰則を破つて、猿に、人参や芋を、やつてしまひました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしの邸へ縁付きましてから、今年で丁度まる五年その間別に変わった事もございませんでしたが、今から十日ほど以前まえの晩、時刻はの刻過でもありましょうか、薄暗い行燈あんどうのかげに何物なにか居て
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悲報の早駕が、如意輪寺の門前についたのはまる二日目の夕方である。境内の月巣庵に障子からほのかなあかりが洩れていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずかまる二年とたない間に——戦捷国せんしょうこくの織田家をして、これ程な待遇を設けさせ、二十九歳の信長と平等に席を取って、少しも見劣りのしない二十一歳の元康という者は
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)