温泉うんぜん)” の例文
温泉うんぜんはちまき、多良頭巾たらづきん」といふこと、これをその国のある地方にて聴く、専ら雲のありさまを示せるもの、おもしろき俚諺ことわざならずや。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
うしろに南支那大陸の九竜きうりよう半島を控へて居る所は馬関海峡の観があるが、ピンクの屹立きつりつして居る光景は島原の温泉うんぜんだけを聯想するのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
宿屋の番頭はこれから三里の山道をば温泉うんぜんたけの温泉へ行かれてはと云つてくれたが、自分は馬か駕籠かごしか通はぬといふ山道やまみちの疲労を恐れて
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ここに長崎県下の温泉うんぜん山の実験談を、『読売新聞』の記事を借りて紹介しよう。長崎県にては、この状態にかかることを「だらし」と呼ぶ由。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
当時島原一円の領主であった松倉重次しげつぐは惰弱の暗君で、いたずらに重税をほしいままにした。宗教上の圧迫も残虐で宗徒を温泉うんぜん(雲仙嶽)の火口へ投げ込んだりした。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
温泉うんぜん岳の火口がそのために用いられた。熱湯に浸して苦しめるのである。が殉教者たちは、その苦しみを見せつけられても、退転しようとはしなかった。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
長崎に、温泉うんぜんの山に、大村の刑場に、殉教の美しい血を惜しまなかった幾多の聖徒の名をけがす破廉恥漢はれんちかん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持っているにはいますが、何しろ土地がこの通りかけ離れた土地ですから、人間に近い浅間山や、富士山、肥前の温泉うんぜん、肥後の阿蘇といったように世間が注意しません
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「きりしまつつじ霧島山に無く、うんぜんつつじ温泉うんぜん岳に産せず」等々の所論が満載されている。
温泉うんぜんたけ十日とをかこもれど我がのどのすがすがしからぬを一人ひとりさびしむ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
九月に入ると、肥州ひしゅう温泉うんぜんだけが、数日にわたって鳴動した。頂上の噴火口に投げ込まれた切支丹宗徒きりしたんしゅうと怨念おんねんのなす業だという流言が、肥筑ひちくの人々をおそれしめた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いったい、どこを掘ってもよい水です、一歩、海辺へ出ると、柑橘かんきつの実る平和な村があります、三角みすみの港から有明の海、温泉うんぜんたけをながめた風景は、到底、関東にも、関西にもありません。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多良嶽たらだけとあひむかふとき温泉うんぜんの秋立つ山にころもひるがへる
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
熊本のあがたより遠く見はるかす温泉うんぜんたけただならぬやま
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)