かわ)” の例文
朝、胃痛ひどく、阿片あへん丁幾チンキ服用。ために、咽喉のどかわき、手足のしびれるような感じがしきりにする。部分的錯乱と、全体的痴呆。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼はかわいた唇をなめてあたりを見まわした。大沼喜三郎をてるつもりでいた。彼はそれを阿賀妻に連れて行かれていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あとを言い残して、かかかかかっと続けて云うのは、咽喉のどかわくから水をと云いたいが、口が利けなくなって手真似を致します。伯父が是を見て
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「御新造さんが晝頃になつて、少し氣分がよくなつたが、喉がかわいて仕樣がないから、水が欲しいと仰しやいました」
女が「じゃ切りがないから、もう帰りますよ。」と言って帰って行った後で、女中の持って来た桜湯にかわいた咽喉を湿うるおして、十時を過ぎて、其家そこを出た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それから、油断はならぬというふうに、かわききらない涙の奥で、白眼をくるりと動かすのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
神意審問会の索輪つなわの中で、濃厚な疑惑に包まれ、しかもそれが、ピッタリと現存の四人、その一群に、最後の切札が投ぜられたのだ。法水は唇がかわき、封筒を持つ右手が怪しくもふるえ出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一頃はう人どころか、こけの下に土も枯れ、水もかわいていたんですが、近年ちかごろ他国の人たちが方々から尋ねて来て、世評が高いもんですから、記念碑が新しく建ちましてね、名所のようになりました。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親おっかさん、咽がかわいていけないから、お茶を一杯入れて下さいナ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
神戸高商にはこんな人達が多いと見えて、或教授は歯医者へ行く途中、咽喉のどが乾いて仕方がないので(学校教員だとて咽喉のかわかぬといふ法はない)珈琲店カフエーへ飛び込んで、立続たてつゞけに紅茶を二杯飲んだ。
ちょうど咽喉のどかわいていたので、椰子水でも貰おうかと、豚の逃亡を防ぐための柵を乗越して裏から家の庭にはいった。
それをどこからかのぞかれているのではないかと針のような神経を立て、かわいた気持でぬすむようにあたりを見まわした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
夕暮らしい寒い風が問屋物とんやものを運搬する荷馬車のきしって行く跡からかわききった砂塵すなほこりを巻き揚げていった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「親分、落ち着いてゐちやいけませんよ。大變な事が始まつたんだ。あつ喉がかわく、水を一杯——」
それでなくても検事と熊城は、唇が割れ唾液がかわいて、ただひたすらに、法水の持ち出した奇矯転倒の世界が、一つ大きな蜻蛉とんぼがえりを打って、夢想の翼を落してしまう時機を夢見るのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
める青草あをくさえむとしてみづかわいたのであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
六月の中旬のことで、庭の隅には丈の高い紅と白とのスウィートピイが美しくむらがり咲いていた。花の前に立って、三造は、しばらく涙のかわくのを待った。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「親分、落着いていちゃいけませんよ。大変な事が始まったんだ。あっのどかわく、水を一杯——」