浅茅あさじ)” の例文
さて、旧街道を——庫裡くりを一廻り、寺の前から——路をうずめた浅茅あさじを踏んで、横切って、石段下のたらたらざかを昇りかかった時であった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時公園の亭座敷ちんざしきに住む九里氏のもとへ早速相談に行った処、ここへ逃げて来てはという事になり、私は荷物一切車に積んで浅茅あさじはらへとのがれました。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
この室に落ちついて、浅茅あさじはらの向こうに見える若草山一帯の新緑(と言ってももう少し遅いが)を窓から眺めていると、いかにも京都とは違った気分が迫って来る。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
盛岡中学から、東京での大学時代にかけて、原抱琴、岩動炎天、岩動露子、柴浅茅あさじ、あるいは石川啄木などがいたことは、前にも書いた。この中で露子と抱琴とが碁が強かった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しぐれ降る浅茅あさじはらの夕ぐれに二こえ三声かりがねの、便り待つ身の憂きつらさ——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鬼婆で名高い浅茅あさじヶ原に近いだけに、鬼娘の噂がそれからそれへと仰々ぎょうぎょうしく伝えられて、残暑の強いこの頃でも、気の弱い娘子供は日が暮れると門涼かどすずみに出るのを恐れるようになった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅茅あさじは庭の表も見えぬほど茂って、よもぎは軒の高さに達するほど、むぐらは西門、東門を閉じてしまったというと用心がよくなったようにも聞こえるが、くずれた土塀どべいは牛や馬が踏みならしてしまい
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅茅あさじはらとぞ荒れにける、月の光はくまなくて、秋風のみぞ身にはむ、というところの、今様いまようをうたってみたいと思いますから、どうぞ、それまでの間お待ち下さいませ、それを済ましさえ致せば
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さみだれに庭のやり水瀬を深み浅茅あさじがすゑは波よするなり
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ふるき都を来て見れば 浅茅あさじが原とぞ荒れにける
会者、蝶衣ちょうい、東洋城、癖三酔、松浜、浅茅あさじ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
浅茅あさじおうる武蔵野の原に過ぎず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
浅茅あさじが原とぞ荒れにける
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私は十幾年以前奈良の浅茅あさじはらで泥棒のために絵具箱とトランクを盗まれた事がある、その泥棒がつかまって、私は警察署へ出頭して絵具箱を頂戴ちょうだいして帰った
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
の古戦場をよぎつて、矢叫やさけびの音を風に聞き、浅茅あさじはらの月影に、いにしえの都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此のおうなが六十年の昔をすいして、世にもまれなる、容色みめよき上﨟じょうろうとしても差支さしつかえはないと思ふ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)