洗煉せんれん)” の例文
「まず感じることです。感覚を、最も美しく賢く洗煉せんれんすることです。自然美の直接の感受から離れた思考などとは、灰色の夢ですよ。」
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
紅葉の考え方とか物の観方みかたと云うものは、常識の範囲を、一歩も出ていないのですからね。たゞ、洗煉せんれんされた常識に過ぎないのですよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私たちは構図とその画線と色彩とが、ここまで省略されるのに、幾歳月かの洗煉せんれんを経ていることを見逃すことは出来ぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
くびのひねりよう、手の挙げよう、べてが洗煉せんれんされていて、注意深く、神経質に、人工の極致を尽してみがきをかけられた貴重品の感がありました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ハイカラハイカラと軽蔑して呼ばれる場合が多い、しかしハイカラというものもまた都会人の洗煉せんれんされたいきというものとおんなじような場合がある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
即ち天武天皇より三代の朝にわたる祈念は、音楽の洗煉せんれんを伴ってはじめて壮麗な調べを得たとえないだろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
小初は一しきり料理を喰べ終ると、いかにも東京の料理屋らしい洗煉せんれんされた夏座敷をじろじろ見廻しながら
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
竹村たけむらはその温順おとなしさと寛容くわんようなのに面喰めんくらはされてしまつた。彼女かのぢよやはらかで洗煉せんれんされた調子てうしから受取うけとられる感情かんじやうると、しかしかんがかたが、きはめて自然しぜんえるのであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
T夫人の客間においては、皆ひいでた階級の人々であったから、花やかな礼容の下に、趣味は洗煉せんれんされまた尊大になっていた。習慣は無意識的なあらゆる精緻せいちさを含んでいた。
こういう凡人の相貌を芸術化するという稀有けうな役割を持つ能面が、野卑な悪写実に走らずして、最も高雅な方向に向ったのは、一に当時の洗煉せんれんされた一般的美意識によると共に
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
オプティミズムの根柢こんていには合理主義或いは主知主義がなければならぬ。しかるにオプティミズムがこの方向に洗煉せんれんされた場合、なお何等か成功主義というものが残り得るであろうか。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
その代り様々のアクセッサリーの趣向にかけて、特に女性は恐らく世界最高の洗煉せんれんに達してゐると称していいだらう。例へば某高官の美しい夫人は、臍窩せいかにダイヤモンドをめこんでゐる。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私はいまは全く死語と化したと云っていい、かの江戸っ子という種族の末裔まつえいであって、その出生よりして趣味感覚は都会風に洗煉せんれんせられ、私は巧まずして弁舌爽やかであり、また座談にも長じている。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
感情の洗煉せんれんされていない人は、この作者の描いた描写の中からその志をみ取ることはむつかしいかも知れん。主観の暴露しておる作品にまず飛びつく読者があるようである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
部屋の中には、夫人の繊細せんさい洗煉せんれんされた趣味が、隅から隅まで、行き渡っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
写真の観世音菩薩像にしても金銀五彩の調和そのものであり、且つ又その個々の色彩の質が持つ高度の美に至っては、如何に当時の画人の美意識の極度に洗煉せんれんされていたかがうかがわれる。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ひとりよがりで他には通じにくいものが多い。これは単純の味を解せぬものである。寡黙の武器を扱うことを知らぬものである。洗煉せんれんされた単純なる言葉のいかに強力であるかを解せぬものである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)