泣音なくね)” の例文
その時男の声音こわねは全く聞えずして、唯ひとり女のほしいままに泣音なくねもらすのみなる。寤めたる貫一はいやが上に寤めて、自らゆゑを知らざる胸をとどろかせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
蒸々むしむしと悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児みどりご泣音なくねも沈み、鶏のさえ羽叩くにものうげで、庇間ひあわいにかけた階子はしごに留まって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝の上になか繰弘くりひろげたる文は何の哀れを籠めたるや、打ち見やる眼元めもとに無限のなさけを含み、果は恰も悲しみに堪へざるものの如く、ブル/\と身震ひして、丈もて顏を掩ひ、泣音なくねを忍樣いぢらし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
貫一の手にすがりて、たちまちその肩におもて推当おしあつると見れば、彼も泣音なくねもらすなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と云う時、次の泣音なくねがした。続いてすすり泣く声が聞えたが、その真先まっさきだったのは、お蔦のこれを結った、髪結のお増であった。芸妓げいこ島田は名誉のおんなが、いかに、丹精をぬきんでたろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮は泣音なくねほとばしらんとするを咬緊くひしめて、濡浸ぬれひたれるそで犇々ひしひしおもて擦付すりつけたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うささんじよう、こひわすれよう、泣音なくねしのばうとするのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恋を忘れよう、泣音なくねを忍ぼうとするのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)