河獺かわうそ)” の例文
どうやら一行の大将は、二人目にいた襟に河獺かわうその毛皮をつけたシュウシュウ鳴る立派なインバネスを着た大兵肥満の人物らしかった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きつねにつままれたようにぼうとなるものでございますわ、ほんとうに失礼いたしました、こんな河獺かわうそ住居すまいのような処へおでを願いまして
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まったくその頃の向島は今とはまるで違っていて、いつかもお話し申した通り、狸も出れば狐も出る、河獺かわうそも出る、河童だって出そうな所でしたからね
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いやむじなだ」「いや河獺かわうそよ」「いやいや鼯鼠むささびに相違ない」——噂は噂を産むのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこから小梅を通って亀戸へ向ったのだが、枯野道へかかったとき、右側にある田川の枯芦の繁みから、いたちとも河獺かわうそともみえるかなり大きな毛物が、とつぜんとびだして来て道を横切った。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや、そうじゃない——とまたそれに反説をかつぐ者もあって、狐だろう、狸の仕業しわざだろう、否、野槌のづちという河獺かわうそのような小動物の妖気にちがいないなどと、知ったか振りをするのもある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人は、どこか河獺かわうそに似ていました。赤ひげがぴんとはねて、歯はみんな銀の入歯でした。署長さんは立派な金モールのついた、長い赤いマントを着て、毎日ていねいに町をみまわりました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
月うすし河獺かわうそや取ル鮭の魚 蘆錆
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
江戸時代には三宅坂下の堀に河獺かわうそんでいて、往来の人をおどしたなどという伝説がある。そんなことも今更に思い出されて、私はひどく臆病になった。
御堀端三題 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると声の下に、憤激したお照が、また河獺かわうそのように僕に飛びついてきた。速水はそれを押えるのにまた骨を折らねばならなかった。その後ですこしおごそかな面を僕の方に向け
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
声のする方へ往ってみると、の礁の上に小坊主が五六人おって、何か理の解らん事を云っておるから、大声をすると河獺かわうそが水の中へ入るように、ぴょんぴょんと飛びこんだとか
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
霜の降ったように白く見える庭の地面に銀毛を冠った巨大な猩々しょうじょうが空に向かって河獺かわうそのように飛んでいる。その猩々をあやすように、両手を軽く打ち合わせているのは白衣を纒った少女である。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この吹上の奥を、自分たち二人のほかに夜半歩いている人間のあろうはずはない。この城地の奥には狐狸こり河獺かわうそのたぐいが多く棲むと申すこと故、何かそのような獣類などがうろつくのであろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三宅坂みやけざかの方面から参謀本部の下に沿って流れ落ちる大溝おおどぶは、裁判所の横手から長州ヶ原の外部に続いていて、むかしは河獺かわうそが出るとか云われたそうであるが
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その車窓からは、立派な河獺かわうその襟のついたインバネスを着た赭ら顔の肥満紳士がニコやかな笑顔を見せて、手招きをしていた。彼の運転手は車を停めると、ヒラリと外へ下りた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
河獺かわうそか?」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸時代には三宅坂下の堀に河獺かわうそが棲んでいて、往来の人をおどしたなどという伝説がある。そんなことも今更に思い出されて、わたしはひどく臆病になった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「河童や河獺かわうそじゃあねえ。さかなにやられたんだ。おれも驚いたよ」と、藤吉は顔をしかめてささやいた。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔は河獺かわうそが出るとかいわれたそうであるが、その古い溝の石垣のあいだから鰻が釣れるので、うなぎ屋の印半纏しるしばんてんを着た男が小さい岡持をたずさえて穴釣りをしているのをしばしば見受けた。
御堀端三題 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれは大きな蒼い河獺かわうそで、その着物や繖と見えたのは青いはすの葉であった。
早く帰るつもりであったのが思いのほかに時を費したので、暗い寂しい溜池のふちを通るのが薄気味が悪かった。今日こんにちと違って、山王山の麓をめぐる大きい溜池には河獺かわうそが棲むという噂もあった。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それとも河岸の方から河獺かわうそでもまぎれ込んで来たんじゃないかな」
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は両手で大きい河獺かわうその喉を締めつけながら死んでいたのである。
深川の老漁夫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はは、悪い河獺かわうそだ」と、隠居は笑っていた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「むかしはここらに河獺かわうそが出たそうですね」
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)