沙翁さおう)” の例文
と反問するが肝腎かんじんである。臆病おくびょうなる僕に一大興奮剤となった教訓は沙翁さおうの Be just and fear not の一言である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
沙翁さおうは指輪を種に幾多の波瀾はらんを描いた。若い男と若い女を目に見えぬ空裏くうりつなぐものは恋である。恋をそのまま手にとらすものは指輪である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Helsingor は沙翁さおうが発音どおりに Elsinor と書いてから、この名によって多く知られているデンマアク海峡の突端とっぱなの町で
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
今日沙翁さおう劇として残されてゐる作品は、果して沙翁自身が書いたものかどうかといふ、長いことそのままになつてゐる文芸史上の謎でありました。
それから一週間ほどたって、私は例のストラッドフォード・オン・アヴォンに沙翁さおうの故郷をたずねることになりました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ、読者にお断りして置きたいのは、この作品が、沙翁さおうの「ハムレット」の註釈書でもなし、または、新解釈の書でも決してないという事である。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
四月三十日 覚人東道、沙翁さおうの誕生地ストラツトフオードに向ふ。楠窓、一朗、友次郎、章子同行。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
余は日本人の演ずる沙翁さおう劇を観る事を欲せず亦日本語のオペラを聴く事を避けんとするものなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、彼は新らしい知識的宣伝者と見れば、どんなものにも即座に金を注ぎ込んだ。彼の道楽の一つは、アメリカ沙翁さおうの出現するのを待つことだった——魚釣よりも気の長い道楽だが。
またその当時人形操あやつりには辰松八郎兵衛たつまつはちろべえ、吉田三郎兵衛などが盛名を博し、不世出の大文豪、我国の沙翁さおうと呼ばれる近松門左衛門ちかまつもんざえもんが、作者として名作を惜気おしげもなく与え、義太夫に語らせ
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それがため、いろいろの邪推を起して遂には女を殺します。そうして、殺した後に、邪推だったということがわかると悔恨の念もまた甚だしいのです。沙翁さおうの「オセロ」を御承知でしょう。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さればこそ沙翁さおうの悲劇『ハムレット』にも、「死ぬるはねむるなり、眠るはことやすけれど、眠る間に夢という恐ろしきものあるなれば云々うんぬん
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ところで沙翁さおうには今一つの特色があります。上述の時間的なるに対してこれは空間的と云うてもよかろうと思います。すなわちこういう解剖なのです。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この一刹那に、この女優がかつて舞台にのぼした事のある沙翁さおう劇の女主人公、埃及エヂプトの女王クレオパトラの最後が、強い暗示として閃かなかつたと誰が言ひ得よう。
東京の家からは英語の教科書に使われていたラムの『沙翁さおう物語』、アービングの『スケッチブック』とを送り届けてくれたので、折々字引と首引くびッぴきをしたこともないではなかった。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すでに沙翁さおうのかいたものでも分ければ幾通りにも分けられる恋が書いてありますが、近代に至るとその区別がますます微細になりはせぬかと思われます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不思議なもので、人生には理屈をもって説き得られぬことがたくさんある。沙翁さおうの言にも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ダウデンがちゃんと僕の名をここへげてくれている。特別に沙翁さおうを研究するクレイグ氏と書いてくれている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちエリザベス(エドワード四世の妃)が幽閉中の二王子に逢いに来る場と、二王子を殺した刺客せっかく述懐じゅっかいの場は沙翁さおうの歴史劇リチャード三世のうちにもある。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「世の中の人は云うている。明治も四十年になる、まだ沙翁さおうが出ない、まだゲーテが出ない。四十年を長いと思えばこそ、そんな愚痴ぐちが出る。一弾指の間に何が出る」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
図書館には沙翁さおう全集があった。ポルグレーヴの経済字彙じいがあった。余の著書も二三冊あった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現代の作物さくぶつではないが沙翁さおうのオセロなどはその一例であります。事件の発展や、性格の描写は真を得ておりましょう、私も二三度講じた事があるから、その辺はよく心得ている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沙翁さおうの専門学者であると云うことが、二三行書き加えてあっただけである。自分はその時雑誌を下へ置いて、あの字引はついに完成されずに、反故ほごになってしまったのかと考えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし文士がわるければことわって置く。余は文士ではない、西片町にしかたまちに住む学者だ。もし疑うならこの問題をとって学者的に説明してやろう。読者は沙翁さおうの悲劇マクベスを知っているだろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例をげて二三を語ればすぐに合点がてんが行く。古い話であるがむかしの人は劇の三統一と云う事を必要条件のように説いた。ところが沙翁さおうの劇はこれを破っている。しかも立派にできている。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中村はその時おれは書物なんかいらないから、何でも貴様のすきなものを買ってやると云った。そうしてアーノルドの論文と沙翁さおうのハムレットを買ってくれた。その本はいまだに持っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最初のは沙翁さおうの句で、次のはデフォーと云う男の句であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)