水溜みづたま)” の例文
何ももよかつたのです、その時は。清らかで健康で、どんなに外から水がみ込んで來ても汚ならしい水溜みづたまりにはならなかつたのです。
森の中の小さな水溜みづたまりのあしの中で、さっきから一生けん命歌ってゐたよし切りが、あわてて早口にひました。
よく利く薬とえらい薬 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
三人連は矢張やはり話しながら新屋敷の方へ向いて行く。坂の途中からは真暗であるが、慣れた道と見えて巧に水溜みづたまりをけて行く。うしろから見れば長靴ながぐつの拍車が光る。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
りながら何の御禮に及びませうぞそれ其處そこ水溜みづたまり此處には石がころげ有りと飽迄あくまでお安に安心させ何處どこ連行つれゆきばらさんかと心の内に目算しつゝ麹町をもとくすぎて初夜のかね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
至るところの水溜みづたまりで女達が洗濯してゐた。目のくらむ程暑い往来に石炭酸の匂が残つてゐた。私は北京のよりも性急に走る人力車に乗つて、曾老人の添書を携へて若夫人を訪ねた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
たばになつてたふれた卒塔婆そとばと共に青苔あをごけ斑点しみおほはれた墓石はかいしは、岸とふ限界さへくづれてしまつた水溜みづたまりのやうな古池ふるいけの中へ、幾個いくつとなくのめり込んでる。無論むろん新しい手向たむけの花なぞは一つも見えない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「寒い? さうだ——おまけに水溜みづたまりに立つてゐるんだ! では、ジエィン、もうよろしい、あちらへいらつしやい。」
すると今度は、林の中の小さな水溜みづたまりのあしの中に居たよしきりが、急いで云ひました。
よく利く薬とえらい薬 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)