水嵩みづかさ)” の例文
そのときのことを僕はいまだに想浮おもひうかべることが出来る。その日は村人のふ『酢川落すかおち』の日で、水嵩みづかさが大分ふえてゐた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
屋根やねいても、いたつても、一雨ひとあめつよくかゝつて、水嵩みづかさすと、一堪ひとたまりもなく押流おしながすさうで、いつもうしたあからさまなていだとふ。——
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今日こんにち本所ほんじよは火事には会つても、洪水に会ふことはないであらう。が、その時の大水は僕の記憶に残つてゐるのでは一番水嵩みづかさの高いものだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くだり/\て次第に水嵩みづかさを増すに從ひ、この詛はるゝ不幸のみぞ、犬の次第に狼に變はるをみ 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
離るればすぐに山にてたにの流れも水嵩みづかさまして音高く昨夜ゆふべの雲はまだ山と別れず朝嵐身にこたへてさぶ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
中津川の水嵩みづかさ減りたる此頃、木の間伝ひの水の声たえ/″\なれど、程近き水車の響、秋めいたる虫の音を織りまぜて、灯影ほのめく庭の紫陽花あぢさゐの風情の云ひがたきなど
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さうして森を切れ/″\にちぎり、もの凄い響きを遠く響かせ、豪雨や渦卷くみぞれたびにいつも水嵩みづかさを増したのだつた。また流の土堤の林と云へば骸骨の行列としか見えなかつたのだ。
ここを南に去ること一里がほどに、流沙河りうさがと申す大河がおぢやる。この河は水嵩みづかさも多く、流れも矢を射る如くぢやによつて、日頃から人馬の渡りに難儀致すとか承つた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まだ夜中にもならぬうちに家を出て夜通よどほし歩いた。あけがたに強雨がううが降つて合羽かつぱまで透した。道は山中に入つて、小川は水嵩みづかさが増し、濁つた水がいきほひづいて流れてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)