殿てん)” の例文
わたしは黄金の木や、大理石の町や玉でかざったご殿てんがそこにもここにもっていても、ちっともおどろきはしなかったであろう。
だれかと思って横をみると、ご殿てん修築しゅうちくに使用する大石のたくさんつんであるあいだに、元気のない蛾次郎がじろうかおがチラと見えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弓形をなした橋を渡ると、そこにまた一廓のご殿てんがあったが、それぞ殿とののご愛妾鳰鳥におどりの方の住居すまいであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
みやとかご殿てんとかの建築や船造りのために、山に木材を採りにはいるときもその一つ、それから木を運びきりけずって、いよいよ船のかわら(底材そこざい)をすえ、または新築の棟木むなぎをあげる日なども
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女王さまは、まねかれたご殿てんにはいりました。そして、ふと見れば、わかい女王になる人とは白雪姫ではありませんか。女王はおそろしさで、そこに立ちすくんだまま動くことができなくなりました。
「ご殿てんにいるよ。魔法博士という、えらい人さ。」
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
伊那丸いなまる間者かんじゃがまよいこみましたと、おくのご殿てんにどなってやるのだ。待っていろ、そこで!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青銅瓦せいどうがわらのご殿てん屋根やね樹林じゅりんからすいてみえる高楼たかどのづくりのしゅ勾欄こうらんしば土手どてにのびのびと枝ぶりをわせている松のすがたなど城というよりは、まことに、たちとよぶほうがふさわしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)