残燈ありあけ)” の例文
新字:残灯
残燈ありあけ暗く床柱の黒うつややかにひかるあたり薄き紫の色めて、こうかおり残りたり。枕をはずして顔をあげつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残燈ありあけ暗く床柱とこばしらの黒うつややかにひかるあたり薄き紫のいろめて、こうかおり残りたり。枕をはづして顔をあげつ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
行燈あんどん組でね、ことにお嬢さんには火がたたる、とかいっていたんだから、あの陽気家を説き伏せて、残燈ありあけは行燈と取極めたんでさ……洋燈ランプはかんかんあかるかった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒塗金蒔絵きんまきえの小さな棚を飾って、毛糸で編んだ紫陽花あじさいの青い花に、ぎょく丸火屋まるぼや残燈ありあけを包んで載せて、中の棚に、香包を斜めに、古銅の香合が置いてあって、下の台へ鼻紙を。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕に手をき、むっくり起きると、あたかもその花環の下、襖の合せ目の処に、残燈ありあけくまかと見えて、薄紫に畳を染めて、例のすみれ色の手巾ハンケチが、寂然せきぜんとして落ちたのに心着いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてもそのは暑かりしや、夢の恐怖おそれもだえしや、紅裏もみうらの絹の掻巻かいまき鳩尾みずおちすべ退いて、寝衣ねまき衣紋えもん崩れたる、雪のはだえに蚊帳の色、残燈ありあけの灯に青く染まって、まくらに乱れたびんの毛も
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっと花環が消えると、横に枕した夫人の黒髪、後向きに、掻巻の襟を出た肩のあたりあらわに見えた。残燈ありあけはその枕許にも差置いてあったが、どちらのあかりでも、繋いだものの中は断たれず。……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人は残燈ありあけに消え残る、幻のような姿で、蚊帳の中から女中を呼んだ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)