死灰しかい)” の例文
一体東海道掛川かけがわ宿しゅくから同じ汽車に乗り組んだと覚えている、腰掛こしかけすみこうべを垂れて、死灰しかいのごとくひかえたから別段目にも留まらなかった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地面は昼間温かい太陽に向って九千三百万マイルの彼方から来る光熱を浴びているが、夜になると冷たい死灰しかいのような宇宙の果に向き変ってしまう。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いわんや封建社会の活火は、自家の築きしかまどにおいて、ようや消燼しょうじんして、今や僅かに半温半冷の死灰しかいとどめんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その作品は死灰しかいの如くなつて、今日世人から尊重されるやうな作品は生れて来なかつたかも知れない。
石川啄木と小奴 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
死灰しかいの再び燃えぬうちに、早く娘を昇に合せて多年の胸の塊を一時におろしてしまいたいが、娘が、思うように、如才なくたちまわらんので、それで歯癢はがゆがって気をみ散らす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この乱流の間によこたはりて高さ二丈に余り、そのいただきたひらかひろがりて、ゆたかに百人を立たしむべき大磐石だいばんじやく、風雨に歳経としふはだへ死灰しかいの色を成して、うろこも添はず、毛も生ひざれど、かたち可恐おそろしげにうづくまりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
磯五に対する限り、お高のこころは死灰しかいのようになっているのであろうか。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
安楽椅子に伸びちゃったまま、黄色い死灰しかいのような色沢いろつやになって、眼ばかりキラキラ光らしている光景は、ちょうど木乃伊ミイラの陳列会みたいで、気味の悪いとも物凄いとも形容が出来ないそうです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
少年は姓桂木氏かつらぎし、東京なるなにがし学校の秀才で、今年夏のはじめから一種憂鬱ゆううつやまいにかゝり、日をるに従うて、色も、心も死灰しかいの如く、やがて石碑いしぶみの下に形なきまつりけるばかりになつたが
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
然れどもその志は、死灰しかいに帰するあたわず。あたかも好し、安政元年正月十八日、前言の期をたがえず、ペルリは軍艦四隻、汽船三隻をひきいて、江戸羽根田に闖入ちんにゅうし、また退しりぞいて神奈川に投錨とうびょうす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)