槍襖やりぶすま)” の例文
卜斎ははやくも観念かんねんして、かざりをとった陣刀じんとう脇差わきざしにぶっこみ、りゅうッ——とくがはやいか、その槍襖やりぶすまの一かくへ、われから血路けつろをひらきに走った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何と、紙屑買かみくずかい一人を、鉄砲づくめ、槍襖やりぶすまとらへたが、見ものであつたよ。——国持諸侯くにもちだいみょうしらみ合戦かっせんをするやうだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
群がり立つたる槍襖やりぶすま戞矢かつし々々と斬り払ひ、手向ふ捕手とりて役人を当るに任せてなぐり斬り、或は海へひ込み、又は竹矢来やらいへ突込みつゝ、海水をあけに染めて闘へば
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これをみた信玄の近侍の者二十人は槍襖やりぶすまを作って突撃隊を阻止したが、その間をけ通って、スワと云う間もなく信玄に近寄った謙信は、長光の太刀をふりかぶって
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大石大木を投げおろし、それからそろって槍襖やりぶすま、土煙りをくぐって突いて来たっけ。味方は防いだ、よく防いだ、二度も三度も追い返した。おれは斬った、斬り立てた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ポアッソニエの大通グランブールヴァルはもう五色ごしきの光の槍襖やりぶすまを八方から突出つきだしていた。しかしそれにされ、あるいはそれをけて行く往来の人はまだふるいにかけられていなかった。ゴミが多かった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこで體を突ツ張つて、腕を足拍子あしひやうしを取つて、出來るだけえらさうに寛々ゆる/\と歩いて見る。駄目だ。些ともえらくなれない。何かむやみと氣にかゝツて、不安は槍襖やりぶすまを作ツておそツて來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ウム、すっかり忘れていた。あの槍襖やりぶすまにおどろいて、どうのすみで、気を失っているかもしれねえ。……なにしろ裾野すその鏃鍛冶やじりかじで、おそろしい修羅場しゅらばは知らねえやつだから」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)