枕辺まくらもと)” の例文
旧字:枕邊
彼女かれ寝衣ねまきの袂で首筋のあたりを拭きながら、腹這いになって枕辺まくらもと行燈あんどうかすかかげを仰いだ時に、廊下を踏む足音が低くひびいた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふと目が覚めると、消すのを忘れて眠つた枕辺まくらもとの手ランプの影に、何処から入つて来たか、蟋蟀こほろぎが二ひき、可憐な羽を顫はして啼いてゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その寝るには表の往来を枕にして、二つ並べてべたとこ枕辺まくらもとの方にはランプを置いて、愈々いよいよ睡る時はそのランプの火を吹き消してくらくする。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
トムちやんが、やつれたお母さまの、いまスヤスヤと眠つた枕辺まくらもとに、静かにお坐りしてゐる時に、遠くから少年少女のコウラスが聞えてきました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
彼方此方あっちこっちマゴマゴして、小倉じゅう、宿をさがしたが、何処どこでも泊めない。ヤット一軒泊めてれた所が薄汚ない宿屋で、相宿あいやど同間どうまに人が寝て居る。スルト夜半よなか枕辺まくらもとで小便する音がする。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
此処の爺婆がわずらい付いて、とても助からねえ様になると、その時私共を枕辺まくらもとんで、誠に不思議な縁でお前方は長く泊って下すったが、私はもうとても助からねえ、どうもお前方は駈落者の様だが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おやッと思う中に、その女はスルスルと枕辺まくらもとへ這って来て、どうぞお助け下さい、ご免なすッて下さいと、乱れ髪を畳に摺付けて潜然さめざめと泣く。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
目が覚めると、障子が既に白んで、枕辺まくらもとの洋燈は昨晩よべの儘に点いてはゐるけれど、光が鈍く䗹々じじと幽かな音を立ててゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日は忠一が昼から遊びに来ていたが、この雪の為に今夜は泊る事となって、市郎の枕辺まくらもとで相変らず𤢖わろの研究談に耽っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の枕辺まくらもと洋燈らんぷが消えてゐて、源助の高いいびきが、怎やら畳三畳許り彼方むかうに聞えてゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)