木履ぽっくり)” の例文
東京などの小さな女のは、カランコロンと口で木履ぽっくりの音をさせつつ、何べんでも御馳走ごちそうをじじばばのところへ持って来てくれる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
軒堤燈のきぢょうちんがすうっとならんで、つくり桜花ばなや風鈴、さっき出た花車だしはもう駒形こまがたあたりを押していよう。木履ぽっくりの音、物売りの声、たいした人出だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すぐ姿勢を整え、しゃらこんしゃらこんとお雛妓一流の木履ぽっくりの鈴の踏み鳴し方に人も無げな空気の煽りを私達に残して群集の中に見えなくなった。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小さい時からお乳母日傘んばひがらかさで大きくなったのは申すまでもありません、祖母の小さい時の、記憶の一つだと云う事ですが、お正月か何かの宮参りにいた木履ぽっくり
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
乳呑子ちのみごのともし火を見て無邪気なる笑顔をつくりたる、四つ五つの子が隣の伯母さんに見せんとていと嬉しがる木履ぽっくりの鼻緒、唐縮緬とうちりめんの帯、いづれ赤ならざるはあらず。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だから昼は爪弾つまびきの音が流れ、夕めくと、店の前を芸妓の木履ぽっくりの鈴が通り、金春の姐さんなどが、湯上がりの上ゲびんを涼やかに見せて行くなど、濃厚な脂粉の気も漂うのだが
雪江さんは一ツ橋のさる学校へ通っていたから、朝飯あさはんを済ませると、急いで支度をして出て行く。髪はいつも束髪だったが、履物はきものせいが低いからッて、高い木履ぽっくりを好いて穿いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
笑いながら木履ぽっくりの鈴を鳴らして小走り出して行くうしろ姿を振りかえってみていた爺さんは思い出したように扇子を動かして、何んとなくいい気分で煙草屋の角から袋町の方へのぼって行く。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
灰汁あくがぬけると見違えるような意気な芸者になったりするかと思うと、十八にもなって、振袖ふりそでに鈴のついた木履ぽっくりをちゃらちゃらいわせ、陰でなあにととぼけて見せるとうの立った半玉もあるのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あたしの木履ぽっくりの鈴が鳴るでしょう。——」
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松影を透して、女中の箱屋を連れた雛妓は木履ぽっくりを踏石にて鳴らして帰って行くのが見えた。わたくしのいる窓に声の届きそうな恰好かっこうの位置へ来ると、かの女は始めた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こわいおさむらいさんの大勢に、こんな生き死にの騒ぎをさせるような、巨万の財宝がかくされてあろうなどとは、もとより知るよしもないお美夜ちゃん……まるで、塗りのはげた木履ぽっくりに小判がのっかって
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
木履ぽっくりの鈴の音は、豆菊だった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその小女から、帆柱を横たえた和船型の大きな船を五大力ということだの、木履ぽっくりのように膨れて黒いのは達磨だるまぶねということだの、伝馬船てんません荷足にたぶねの区別をも教えて貰った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)