暢々のびのび)” の例文
そして、久しぶりに妻や子供と離れて、がらんとした家の中に寝そべってると、何とも云えぬ暢々のびのびとした気持になったものです。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そいつぁちっと早いな。怪しいもんだぜ」などと、鶴さんは節の暢々のびのびした白い手をのばして、莨盆たばこぼんを引寄せながら、お島の顔を見あげた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
余りにりきっている生命へ、暢々のびのびと、天然放縦のわがままを与えて、酒ものみ、転寝うたたねもし、書も読み、画筆ももてあそび、欠伸あくびもしたりして
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これまで知らなかった、暢々のびのびしたひろさでさして来た。ソモフは、万事を約束通りにしてくれ、彼女は工場へ働き出した。
そして時とすると、理由もなく突然走り出すことがあった。頭と上半身とを軽く右に傾けながら、しなやかに暢々のびのびとして、小さな動物のように駆けた。
三日前の夕暮れには共に暢々のびのびして眺めた風景にこのたびは君一人で面接しながら察してくれたであろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
用達ようたしすることがあって、銀座の通へ出た頃は、実に体躯からだ暢々のびのびとした。腰の痛いことも忘れた。いかに自由で、いかに手足の言うことをくような日が、めぐり廻って来たろう。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お雪ちゃんはこう言って、なんとなく暢々のびのびした気にさえなったのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『無駄ですぞ、暢々のびのびと身をやすめていたほうが得策とくさくじゃ。上杉家の者が、ほん気になってせてくるつもりなら、何で、この真昼間を選ぶものですか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
異性の友情も、私は微妙な陰翳のあるまま朗らかに肯定し暢々のびのび保って行きたい。けれども、むずかしいのは私の根性が思う通り垢抜けてくれないことだ。
大切な芽 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
が、そこまでのつきつめた憂いも、帰結を心に観てしまうと、低雲ていうん、あとは迷うことなく暢々のびのびとしているのも彼にきわだっている性情の一面だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伸子は、この部屋をこめている生活の狭い、暢々のびのびしない雰囲気が何となく窮屈で馴染なじめなかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
きょうは良人おっとの姿にも、閑日のくつろぎが見える。久しぶり暢々のびのびとした家庭の主人らしく、妻の眼にもながめられた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——わしの性分か。わしは大河のこの悠久なおもむきが妙に好ましい。川へかぶと、心もいつか暢々のびのびしてくる」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、彼の妻が生来弱いので、子を生むとか、病床にいるとか、とかく事欠きがちなので、久しぶり戦場から帰っても、強右衛門は、暢々のびのびするひまもなかったのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふすまを隔てて、吉保は、白絹しらぎぬの小蒲団に枕をのせ、暢々のびのびと寝ころんでいた。そのからだに手をかけている老人は、鍼按摩はりあんまの大家で杉山流とみずから称えている杉山検校だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「久しゅう、酒も飲まなんだ。——酒はたべても、このように、暢々のびのびとはのう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光悦は、それですっかり分ったように暢々のびのびと笑いながら、母のほうへ向って
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上下一体、暢々のびのびと、生命を楽しませて酔い歌う慣わしであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はやく休息するがよい。そして暢々のびのび、正月をいたすがよい」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、秀吉もここでは暢々のびのびとくつろいで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)