くろ)” の例文
「いやその君意をくろうし、いたずらに無事を祈って、弱音を吐きならべたものこそ、老臣の一部にちがいない。そのために」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒血大地をさらにくろうし、冀州の空、星は妖しく赤かった。田豊死すとつたえ聞いて、人知れず涙をながした者も多かった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足利殿は、また足利殿に加担の衆は、そこの根本の理にくろうござります。故に、彼等の戦は乱です。名は賊子ぞくしです。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その光焔は満天の星をくろうするばかりだったが、江南呉の沿岸はどこを眺めても、うるしのような闇一色であった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
開けば、声はふみをなし、咳唾がいだは珠を成すなどと、みな云っています。恐れながら、その衆評はみな暗に兄君たるあなたの才徳をくろうするものではありませんか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小癪こしゃくなる呉の舟艇、一気に江底の藻屑もくずにせん、と怒り立って、そのおびただしい闘艦、大船の艨艟もうどうをまっ黒に押しひらき、天もくろうし、水のもかくれんばかり
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操こそちんを苦しめ、漢室をくろうしている大逆である。馬騰! そちの兵はそのいずれをちにきたのか
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、十常侍らが政事をみだして帝の御徳をくろうし奉っている事はきょうのことではありません。私のみの憂いではありません。天下万民の怨みとするところです」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その御方をめぐって天日をくろうしている奸臣かんしん佞吏ねいり、世をおおう悪政の魔魅まみどもが敵であるだけです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼓声叫喚こせいきょうかんは天地をくろうし、血はこんこん馬蹄ばていひたし、かばねは積んで累々るいるい山をなしてゆく。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、一女性にょしょう、一地下人ちげびとの問題ではない。院の御徳おんとくくろうし、われら武者所の名にもかかわる。もし、刑部省の手にかかり、朝廷のおんさばきをうけては、われらなんの面目やある。
こうはみだれて雲にかくれ、柳桃りゅうとうは風に騒いで江岸の春をくろうした。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)