新宮しんぐう)” の例文
常に都風みやびたる事を好んで、過活心わたらいごころがないので、家の者は学者か僧侶かにするつもりで、新宮しんぐう神奴かんぬし安部弓麿あべのゆみまろもとへ通わしてあった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると、新宮しんぐう串本くしもとのあいだの海岸に、森戸崎もりとざきというみさきがあるのです。この文句の『もりとざき』にあたるわけですね。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しん徐福じょふくが童男女三百人をつれて、仙薬を求めて東方の島に渡ったということは世に知られ、我邦わがくにでも熊野くまの新宮しんぐうがその居住地であったとか
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(中略。)扨久太郎ひさたらう事此六月十二日よりふと大病に取あひ、誠にはじめは、ちも誠に少々にて候へども、新宮しんぐうにもけしからぬむづかしく申候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
信州の山中やまなかに於て密かに爆烈彈を製造してゐる事が發覺して、其一團及び彼等と機密を通じてゐた紀州新宮しんぐうの同主義者が其筋の手に檢擧された。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
令旨を奉じて東国へ下る密使は新宮しんぐうの十郎義盛よしもりときまった。十郎義盛は蔵人に任ぜられ、行家と改名した。行家は四月二十八日、ひそかに京を立った。
新宮しんぐうの町の店先きにツバキの生葉を十枚ずつくくって売っていたのを見たのでそれは何にするかと聴て見たら
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
紀州の海岸百十数里、其処には新宮しんぐうの町もあれば、日本第一の称ある那智のたきもある。熊野川の流、とろ八町の谷、私の心は其海と其山とに向つて烈しく波打つた。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あれは本宮ほんぐう、これは新宮しんぐう、一の童子どうじ、二の童子とかりに所をめ、谷川の流れを那智の滝と思い、そこに飛滝権現ひりゅうごんげんを形ばかりにまつりたてまつったのでございます。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「龍野までは、ちと無理、今夜は、新宮しんぐうあたりの馬方宿うまかたやどで、臭い蒲団に寝ることかいの」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この豊雄は、新宮しんぐうの神官安倍あべ弓麿ゆみまろを先生として、その許へ勉強に通っていた。
四月十二日 新宮しんぐうに行き『熊野』三十周年記念俳句会に臨む。宿前に同じ。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
紀州の新宮しんぐうに近いある村の豪農で父も母も兄弟も健在であった。彼は直ちに見知らぬ故郷へ、見知らぬ父母の下へ、三十年振りの帰省をした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紀州の新宮しんぐう川のごときもその一例で、水のすこしく落ちた季節には何度となく川口を砂で塞ぎ、これを掘り切らねば海の船を呼ぶことがならぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
新宮しんぐうの山伏が、祈祷きとうに参じたと仰っしゃってくれれば分るが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それではこちらは新宮しんぐうがよかろう」
西播怪談実記せいばんかいだんじっき』という本に、揖保いぼ新宮しんぐう村の民七兵衛、山にまき採りに行きて還らず、親兄弟歎き悲みしが、二年を経たる或る夜、村のうしろの山にきて七兵衛が戻ったぞと大声に呼ばわる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)