おのの)” の例文
王問うてその鐘に血を塗るため殺されにくを知り、これをゆるせ、われその罪なくしておののきながら死地に就くに忍びずと言う。
その中には彼の若い妻もいた。口には抑えているが、心のうちの淋しさは思いやられるのである。抱かれておののく彼女の肢体したいがそれを語っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
命を望む時に吹かれることになつてゐる角笛の音がして来る、相抱いて恐怖におののく新郎新婦の前にやがてその老人が現れて来て、命を受取ると云ひ
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いずれも怪我けがのがれぬところと、老いたるは震いおののき、若きは凝瞳すえまなこになりて、ただ一秒ののちを危ぶめり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
國手は風邪とチブスとの間に別に輕重をも認めぬやうな無造作な口吻であつたが、春三郎は戰々兢々として唯此一撃を恐れつゝあつたので體の肉のおののくのを覺えた。
奉行は調べられてもただおののくばかりで、その何故かを知らなかった。ただ思い当ることとして、途中、左慈という奇異な老人に出会ったことを語った。曹操は聞いて
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして波間に漂う落葉の色を見ると、奥の嶺々を飾っていた紅葉は、そろそろ散り始めて山肌をあらわに薄寒く、隣の谷まで忍び寄ってきた冬におののいているさまが想えるのである。
木の葉山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
梅仙女は恐れおののき、江柄三十郎は石に打たれたように打ちひしがれました。併し歓楽の余燼もえさしは、その下から情火を煽って、恐れと疑いとの中にも、二人の宴楽は暁方まで続きました。
花桐はふしぎなふるえをかんじていたことだろう、指がちょっとさわっても顫え、話をしているだけでも顫えた彼女に、それらの総てのおののきがなくなったいまは、その顫えが心の奥ふかくはいりこんで
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
自分のたましいがひやりとおののいたのを感じた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
内心ひそかに恐れおののくのが常である。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
深沈なる馭者の魂も、このときおどるばかりにゆらめきぬ。渠は驚くよりむしろ呆れたり。呆るるよりむしろおののきたるなり。渠は色を変えて、この美しき魔性ましょうのものをめたりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一の大将分の奴が無造作に飛ぶを見て他の輩が多少おののきながら随い飛べど、最後の一、二疋は他の輩の影見えぬまで決心が出来ず、今は全く友達にはぐれると気が付き捨鉢すてばちになって身を投げ
何か怖ろしい悪魔でも見うけたようにおののきが背を走った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、惜しみもし、おののきもした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)