はじ)” の例文
多「立派の旦那様にならねいでも、正直にして天地の道に欠けねえ行いをして居れば、誰にもはじる所はねえから、何も構った所はねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年は六十になってなおやまいなく、二十はたちの女給をとらえて世をはばからず往々青年の如く相戯れて更にはじる心さえない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今の世界に人間普通の苦楽をめて、今日に至るまで大にはじることもなく大に後悔することもなく、こころしずかに月日を送りしは、もって身の仕合しあわせとわねばならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
軽浮けいふにして慓悍ひょうかんなるもの、慧猾けいかつにして狡獪こうかいなるもの、銭を愛するもの、死を恐るるもの、はじを知らざるもの、即ちハレール、セイーの徒の如きは、以て革命家の器械となるを得べし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
巍幸にして天下の為に死し、太祖在天の霊にまみゆるを得ば、巍も亦以てはじ無かるべし。巍至誠至心、直語してまず、尊厳を冒涜ぼうとくす、死を賜うもくい無し、願わくは大王今に於て再思したまえ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのはじを思えば、なんで人より先に立って人なかへ出られましょう
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯の百文ひゃくもんも借りたることはないその上に、品行は清浄しょうじょう潔白にして俯仰ふぎょう天地にはじずと云う、おのずからほかの者と違う処があるから、一緒になってワイ/\云て居ながら、マア一口ひとくちに云えば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ひるがえって自分の身を省れば、あの当時、法廷に引出されて涜職とくしょくの罪を宣告せられながら胸中には別に深くはじる心も起らなかった。これもまた時代の空気のなす所であったのかも知れない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あるいはその腕力をもって征服せられたるにもかかわらず、そのかつて独立国たりし遺風を存し、その国体の記憶を有し、恥を包みはじを忍ぶといえどもその心中報復の念いまだ一日も去るあたわず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
九原きゅうげん はじの 青灯に付する無し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分の腕で出来ようか如何どうだろうか誠に覚束おぼつかない、こまったことだと常に心におもって居るから、あえはじることでもなし、颯々さっさつと人に話して、金が欲しい、金が欲しい、ドウかして洋行をさせたい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
通人つうじんを以て自任じにんする松風庵蘿月宗匠しょうふうあんらげつそうしょうの名にはじると思った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)